ありふれた恋でいいから
忘れて欲しいなんて思ったことなど一度もなかった。

例えば彼の心の何処かに、どんなに色褪せても遠い記憶でも構わないから、私との想い出が残っていてくれればいいと、心の底ではそう願っていた。

それでもこの10年という長い間、彼にあんな辛そうな顔をさせていたのが自分だとしたら、酷く耐え難くて。
彼が笑顔を取り戻すのなら、私は忘れられても構わないと思ったんだ。

彼の笑顔が好きだから。

包み込むようにふわりと微笑んでくれる少し大人びた顔も、目尻にしわが寄るくらい無邪気に笑う嬉しそうな顔も。

私は畑野くんの見せてくれた笑顔の全てが、大好きだから。

もう、私を傷付けたなどと自分を責めずに、彼自身の幸せを掴んで笑顔になって欲しい……、そう思ったんだ。
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