引っ越し先はあたしの隣⁉︎
「もしもし?」
《………》
無言?!
違うところにかけた?
でもスマホ画面にはちゃんと【木下】ってあるし。
「おーい?木下?」
《ははは、はいっ!!!》
なんだよその返事は。
フッ、木下だ。
「かわいいな……っ」
や、やべっ!俺口に出したよね?!恥ずっ!
てか、返事が一向に来ないんだけど?
俺が呼びかけても返事ないし。どした?
そして5回目くらいでようやく声が聞こえた。
《~~──だってばっ!!》
ってきたんだけどね。
最後のほうしか聞こえなかったし。
聞き返してみたけど、《なんでもないよ!》って返されるだけで。
すごい気になるんだけど。
「ほんとに何でもない?」
俺は木下を攻めてみることにした。
俺って嫌なやつだなー。
でも仕方ない。木下がいけないんだから。
《でた、S隼田くん》
S隼田くん、だって。かわいすぎだろ。
「そんな俺はイヤ?」
俺らしくない言い方をしてみる。
でも、不思議なくらいに自然と口から出てくるんだ。
その答えは知っている。たぶんだけど。
木下は素直じゃないところがあるからな。今日一緒にいて感じた。
だからどんな答えが返ってくるのやら。
少し間があいて、声が聞こえてきた。
《……イヤ、じゃない》
「……ごめん、聞こえなかった。もっかい」
《っ~~~~もう言わないよっ!》
それは困る。てか、声小っちゃいって。
《隼田くんわざと聞こえないフリしたんじゃないの?!》
んな訳ないじゃん。
……ま、結果的にはわざとやるつもりだったんだけど。
ほんとに聞こえなかったんだよ。
「わざとじゃない。まじ聞こえなかった」
本当にごめん、と付け加えた。
電話越しから木下の息遣いが聞こえてくる。
その音に心地よさが染み渡る。
俺は木下の言葉を待った。
すると、
《……い、イヤじゃないって言ったの!》
恥ずかし交じりの木下の声が俺の鼓膜を震わせた。