“毒”から始まる恋もある

「そう言われるの、嬉しい」

「そう? じゃあ何度でも言おうか」

「何度もはいらないわよ」

「でも言葉にしなきゃ伝わらないし。俺がどれだけ嬉しいのかもね。あまり会えないなら言葉は惜しんでいたらダメだと思う」


大きな指が頬をゆっくりとなぞる。
キスをされるのかと身構えて、思わず周りをチラチラ見渡す。

今なら誰もいない。
喫煙者がやってこない限り。


「……刈谷さん」

「その呼び方そろそろやめてくれないかしら。二人で同じような苗字連呼するのもいかがなもんなの」

「それもそうか。じゃあ……」


呼ばれるのを待ってるうちに、先に唇が触れた。
頭が真っ白になっているうちに離れた唇が音を吐き出す。


「史恵」


フェイントかけられた。なんか、ものすごく恥ずかしい。


「み、光流」


呼び捨てにするのは、もっと恥ずかしかった。
私、こんな恥ずかしいことお願いしていたのかしら。


「ちょ、すっごい照れる。なんか」


見せられないくらい顔が熱いから、隠すために彼の胸に押し上げた。


「……俺も」


ぎゅうと、音がするんじゃないかってくらいに抱きしめられる。

これじゃあますます人に見られたら恥ずかしいんじゃない? って思って「人が来るよ」って言ったら、「じゃあ、驚いて逃げてもらうってことで」と返された。


案外この人神経図太いな、なんて思いつつ、これ以上ないくらい幸せな心地がして、私も力いっぱい彼を抱きしめた。



< 158 / 177 >

この作品をシェア

pagetop