“毒”から始まる恋もある
「そう言われるの、嬉しい」
「そう? じゃあ何度でも言おうか」
「何度もはいらないわよ」
「でも言葉にしなきゃ伝わらないし。俺がどれだけ嬉しいのかもね。あまり会えないなら言葉は惜しんでいたらダメだと思う」
大きな指が頬をゆっくりとなぞる。
キスをされるのかと身構えて、思わず周りをチラチラ見渡す。
今なら誰もいない。
喫煙者がやってこない限り。
「……刈谷さん」
「その呼び方そろそろやめてくれないかしら。二人で同じような苗字連呼するのもいかがなもんなの」
「それもそうか。じゃあ……」
呼ばれるのを待ってるうちに、先に唇が触れた。
頭が真っ白になっているうちに離れた唇が音を吐き出す。
「史恵」
フェイントかけられた。なんか、ものすごく恥ずかしい。
「み、光流」
呼び捨てにするのは、もっと恥ずかしかった。
私、こんな恥ずかしいことお願いしていたのかしら。
「ちょ、すっごい照れる。なんか」
見せられないくらい顔が熱いから、隠すために彼の胸に押し上げた。
「……俺も」
ぎゅうと、音がするんじゃないかってくらいに抱きしめられる。
これじゃあますます人に見られたら恥ずかしいんじゃない? って思って「人が来るよ」って言ったら、「じゃあ、驚いて逃げてもらうってことで」と返された。
案外この人神経図太いな、なんて思いつつ、これ以上ないくらい幸せな心地がして、私も力いっぱい彼を抱きしめた。