“毒”から始まる恋もある

とりあえず待ち時間の手慰みに、ワインをちまちま飲んでいた。
おつまみはチーズとクラッカーとお惣菜コーナーで見つけてきたサラダ。
女子力ないなって言われそうだけど、まあいいや。

そして、なんとなくほろ酔い気分になったときに彼はやってきて、封筒を差し出した。
 

「はい」

「なにこれ」

「夏メニューのモニター試食会のお知らせ」

「私、まだモニターしていていいの?」

「うん。徳田さんも抜けたから、代わりが見つかるまではお願いしたい。店長もそれでいいって言ってるし」


封筒の中身を開けてみると、前回のようにメニューとモニター試食日程が書かれていた。


「どれどれ、今回はラタトゥイユ?」


ラタトゥイユは通称欧風野菜煮込みだ。
フランスの方の料理だっけ?


「うん。旬のナスをメインに入れて、フランスパンと合わせて出すって。俺は和風でどうですかって言ったんだけど、去年和風鍋出したからダメだって却下された」

「あらら」

「まあ、メニューを最終的に決めるのは店長だから。美味かったよ。野菜も沢山食べれるから、食べにおいでよ」

「うん。参加します」

「また辛辣なご意見待ってます」

「辛辣とは失礼ね。……でも、これからは少し言葉を選ぼうって思ってる」

「……どうして?」


テーブルに頬杖をついて、彼が私を覗き込む。
あなたも飲めば、と私が冷蔵庫を指さすと、彼は頷いてビールを取ってきた。


「で、どうして?」

「えー。目の前で貶されるのって、やっぱり堪えるものかなぁと思い始めてきて。意見を言うのは大事だけど、ちゃんと愛があって言っているのが伝わらないと、私も辛いし言われた方も辛いもの」

「俺は平気だけどね。……徳田さんのこと気にしてるの?」

「まあ、ね」


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