“毒”から始まる恋もある

自分が間違っているとは思えない。
でも、サダくんが完全に間違っているかと言われたら、それも違うと思った。

意見を言うのは大事だ。でも、人を傷つけていいわけじゃない。
世の中、光流みたいな人ばっかりじゃないんだし、もっと上手く気持ちを伝える術を私は身につけていかないと。

髪を指に絡めながら、グラスを傾けようとした時、その手が抑えられ、グラスが奪われる。


「ん?」


顔をあげたら近づいてきた彼に直ぐ目の前にある。
グラスの代わりに、私の唇を押さえる、彼のそれ。
いつも思うけど、キスだけはイキナリだなぁ。


「なに、急に」

「いや、可愛いこと言うから。……でも」


呼吸する合間に、交わされる会話。
彼の瞳が意地悪そうに光る。


「それが徳田さんのお陰だと思うと面白くないけどね」

「……あなた結構ヤキモチやきよね?」

「気づいてなかった?」

「いや……そうでもないかな」

「さすがは史。わかってるじゃない」


彼の私の呼び名は、いつの間にか自然に“史恵”から“史”へと変わった。
短いその単語は、サプリメントのように私に栄養を与えてくれる。


「ところで来週、土曜に休みが取れそう」

「ホント?」

「上田も育ってきたし、店長をちょっと脅した。彼女とデートも出来ないような仕事は辛いですって」

「あはは。やるわね」


お腹を抱えて笑う私と、すぐ近くで彼の見守る彼。


「史、何処行きたい?」

「そうね……」


買い物……は一人でもできる。
映画は時間がもったいないし、アミューズメントパークも人が一杯で待ち時間だけで疲れちゃう。


「大きい公園とか行かない? お腹すいたら近くの店でご飯食べて、目についたところで好きなように過ごすの。せっかく帰る時間を気にしないでいいなら、行き当たりばったりでもいいじゃない」

「いいけど、ホテル位は予約しておきたいな」

「え?」

「朝まではフリーだから。寝坊は出来ないけどね」


あ、そうか。お泊りも可能ってことか。

……じゃあもしかして、今まで手を出してこなかったのは。

そう考えたらなんだか胸がくすぐったくなってきた。
なんだ、なんだ。そういうこと?


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