“毒”から始まる恋もある
害のないスマイルで去っていく店員。菫ははーっと息をついてようやく肩の力を抜く。
「格好いい人ですね。なんだか話すの緊張します」
「アンタの彼氏のほうが格好イイでしょうよ」
「や、そういう意味で比べてるわけじゃないです」
じゃあ何なのよ。
いつまでもグズグズされてるとイライラするわ。
「アンタがしなきゃいけないことは何なのよ。ここで宴会可能か確認したかったんじゃないの。ちゃんとしないならここの支払い全部させるわよ」
「そんなぁ」
「嫌なら自力でちゃんとしなさい」
すっかりしょげかえってしまった菫を前に、しまったなとは思う。
これから食事だってのに、しかも二人だけだってのになんでこんなお通夜みたいな雰囲気になっちゃったのよ。
仕方なく、先に来たビールをガバガバ飲みまくっていると、数家さんが鍋を持ってきた。
「ご贔屓にして頂いてありがとうございます。こちらサービスです」
二人分の余分な小皿に卵が一つ。
「大方召し上がった後で、卵とじにしてみてください。味にまろ味がでてまた違った感じで楽しめますので」
「あ、はい」
「分からなかったら気軽に声をかけてくださいね」
そしてまた安売りスマイル。
そつがないなー、気配りすごいわ。
菫もほうと息をついて、前のめりになって囁いた。
「なんかサービスいいですね、ここ。刈谷先輩と一緒に来たからかなぁ」
「なんで私?」
「だって、ご贔屓にしてるの刈谷先輩でしょう?」
「贔屓も何も昨日初めてきたけどねぇ……」
でも、何かの時には使ってもいい、と思えるような店だ。
いや、誕生日の時には絶対使いたくないけど。
鍋が来たことで、落ち込んでいた菫も復活してきた。
ここまで来たら飲もう。
美味しいご飯とお酒を前にして、イライラしてるのなんかバカらしいわ。