“毒”から始まる恋もある


 そんな感じで三十分弱。
 本当は飲んで酔っ払う前に宴会の段取りの話だけでもさせたかったのだけど、恥ずかしがって聞けずにいる菫は、そこそこに酔っ払い始めた。


「その、なんちゃら飲み会の時にそんなに飲んじゃダメよ」

「はぁい」

「舞波くんの思う壺になるわよ。またこじれたって知らないわ。まあ別れたら別れたでざまあみろだけどね?」

「舞波さんとはもうそんな関係になりませんよう」


アンタはそのつもりでも、あの尻軽男がそう思うかどうかは微妙でしょうよ。

舞波くんはそもそも軽い男だ。話術が上手くて、ドン臭い女は彼と話すだけで直ぐ本気になる。
菫も昔はそんな感じで彼に引っかかったんだろう。同期の江里子の彼氏だったというのに。

どんな甘い言葉に引っかかったんだか知らないけど、菫は彼の浮気相手になり、江里子との結婚を前に振られたってわけだ。

でも、噂じゃ江里子が妊娠したって話も聞くし、そうなると夜はお預け食うことも出てきて、よそに気が向くもんだわよ。
どれだけ気をつけたって気をつけすぎにはならないと思うけど。


 そこそこ食べ進んだ時、飲み物の追加注文をとりに数家店員がやってきて、「よろしければ」と卵を解いでくれる。


「ね。ここって十人位の宴会大丈夫よね? あの小上がりで」

「はい。大丈夫ですよ。予算に応じてメニューも構成出来ます」

「だって。ほら、菫、どうする」

「あ、はい。えっと……」


相変わらずもたつく菫を急かすでもなく、数家さんはゆるい笑みを浮かべて待っている。

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