“毒”から始まる恋もある


 さて、恋を求める独身女子としては、出会いの機会を無駄にする余裕などない。

モニターは数人と言っていた。ってことは、他にも人がいるってわけじゃない。
イケメンの男の人がいるといいな。できれば顔は里中くんに似てるといい。

好き勝手なことを考えながら、私は定時後のメイクに勤しむ。

トイレでメイクを直す社員は結構いる。夜デートって人も多いしね。
まあ、カールアイロンまで持ち込んでいるのは私くらいかもしれないけど。


「ん。完璧」

「あれー刈谷ちゃん、今日何かあるの?」

「彩音」


なぜ営業事務の彩音とこの階で出くわすのかしら。
彼女は普段二階下の営業部にいるはずだけど。


「経費の書類届けにきたのよ。それより、凄くおめかし。デート?」

「違います。デートできる相手を探しに行くの」

「合コン? 募集中なら谷崎くんでいいじゃん。本気みたいよ? 彼」

「何が悲しくて谷崎よ」


ちっとも好みじゃないのよ、谷崎は。
チャラチャラしてるしさ、顔もちょっと田舎臭いし。
そのくせ、格好つけてレイバンの眼鏡をこれみよがしにつけてるし。

女と対面するときに必ず眼鏡を直しているのに、きっと本人は気づいてないんだろう。
最初は格好良く見える仕草も繰り返しすぎると興ざめするのよ。


「それより、後ろ見てよ。ちゃんと巻けてる? 髪」

「巻けてるよ。それにしても扱い悪いねー谷崎くん。かわいそ」

「知らないわよ。じゃあね」


アイロンをポーチにしまい、それを更に大きめのかばんに入れる。
まだ早いけど、いちいち人に言われるのは面倒臭いからもう行ってしまおう。

< 32 / 177 >

この作品をシェア

pagetop