“毒”から始まる恋もある

「こちらが今日の鍋になります。
初夏の新メニューということで“5月病にも対抗できる元気の出るメニュー”を主題に料理人に幾つか出してもらったうち、店内の会議で候補に上がったものになります」


数家さんの説明を聞きながら、飲食店がそんな会議をしているのかと思わず唸った。

そんな時間どこにあるんだろう。
開店準備して開店して客さばいたらもういっぱいいっぱいじゃないの?


「普段は蓋をせず持ってくるのですが、今日は見た目なども評価していただきたいので、ここでご披露させてもらいますね」


そう言って蓋をとられて、私達は思わず覗き込んだ。

鍋中にはタプタプのスープ。その中に、玉ねぎがそのままの姿で三つ泳いでいる。


「……玉ねぎ?」

「そうです。新玉ねぎのワイン煮込みになります」

「ほう、そう来たか」


北浜のおじ様が嬉しそうに唸る。

紫藤さんは、じっと近づいて鍋の表面を目を凝らすようにして見る。

私は、こういうのも鍋って言うのかっていう感じでポカーン。
なんか予想と違いすぎてびっくりだわ。


「今、お取りしますね。新玉ねぎは今は宮崎県産のものを使用していますが、出す時期の頃には、静岡の新玉ねぎが旬になりますのでそちらを使用する予定です。
炒めたベーコンでだしをとり、水と白ワインで煮込みました。味付けはコンソメと塩コショウです。取り分けた後、こちらの小口ネギと粉チーズを振りかけてお召し上がりください」


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