“毒”から始まる恋もある


「刈谷さんはどう思います?」


紫藤さんへの聞き取りを終えた彼は、私の方に向き直った。
どう……って言われてもねぇ。


「味はいいと思うわ。美味しいし、具材がこれだけの割にはボリュームはある」


たかが玉ねぎ一個と思うけど、底に沈殿しているベーコンがそうさせるのか結構お腹には残る気がする。


「ただ見た目がねぇ……。例えば写真をメニューに載せても、玉ねぎ丸一個のインパクトはあるけど、美味しそうとはまた違うような。もっと玉ねぎを細かく切ってスープっぽく仕上げたらだめなの?」

「そうですね。一個を丸ごと使うのは、甘みと旨味を残すためなんです。そこは譲れないですね」


そうか。
でも、玉ねぎって好き嫌いが別れる気がする。
子供の頃ならキライな人のほうが多いような気もするし。

それをどーんと出されたら私ならむしろ引く。


「だったら、味が分かるような宣伝文が欲しいかも。見た目だけじゃアッサリなのかこってりなのか、分からないし。鍋って大抵アッサリが食べたい場合に来るものじゃない? 
意外性を狙うのはいいけど、食べたい気分のものと違うものを食べたら、美味しくたってがっかりすると思う」

「なるほど」


数家さんは頷きながらメモをとっている。

顔が嬉しそうだな。
結構駄目だししているつもりなんだけど、マゾなのかも知れないわ、この人。

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