“毒”から始まる恋もある
「……里中くんみたいな人いないかなー」
「口説いてる男を前にして酷くない?」
「口説いてたの? ウッソだ」
「俺は結構気に入ってるけど、刈谷のこと。性格もハッキリしてて後腐れなさそうだし、カラダもいいし」
「あからさまに都合のイイ女を探す条件じゃん。ざけんな。安く見ないでよね」
酷い男だ。
こんな男に一度でもカラダを許したかと思うとこっちが泣けてくる。
……なんか、疲れたなー。
お義理で付き合ってるのも嫌になってきた。
どうせ、彩音は飲めりゃそれでいいんだろうし、顔出したことで一応義理は果たしたじゃん?
「なんか酒がまずくなったわ。帰る」
「おい、刈谷」
「あれー、刈谷ちゃんもう帰るの」
「うん。じゃあね」
「まだいいじゃん。二次会カラオケだよー? 刈谷ちゃんいないとつまんないよー」
「いや、今日は辞めとくわ。やる気出ないし」
急いで皿に残っていたケーキを食べ、他にも、一応腹が膨らむくらいには食べる。
今から家で料理するのなんて嫌だもの。
さて帰ろう、と幹事の彩音を探そうと思ったら、トイレにでも行ったのか消えている。
仕方なく、隣の席の谷崎に四千円を渡した。
「こんなもんでしょ。払っといてよ。足りなかったら明日請求して」
「いいよ。刈谷が主役じゃん。おごってやるって」
「いいわよ、結構」
お札を押し付けて、小上がりから降りる。
「刈谷、待てって」
「いーの。私だって色々忙しいのよ」
追いかける声を遮断するために、小上がりに設けられているふすまを閉める。
テーブル席が広がるこっちのフロアもなかなかに賑わっていた。結構人気はある店なのかも知れない。