“毒”から始まる恋もある


「頭、痛くて。やっぱ無理そう」

「頭? もしかして二日酔い?」

「そのようです」


彼は困った顔をしたけど、やがて諦めたように顔をあげた。


「しゃあないわ。焦ってすることでもないしな」

「ごめんね」

「ええよ。じゃあもう少しここで寝る? それとも家に帰る?」

「そうねぇ。もう少し寝るわ」

「ん。俺、昼から用事があるから。悪いねんけど十時には出たいんやけど」

「じゃあ、九時に起こして」


ガッツポーズして叫びたいくらいなのに、なんてこと。
飲み過ぎはよくないわね。でも飲み過ぎたからこうなったとも言うし。

痛い頭を抱えつつ、誰かがいる空間の心地よさに包まれながら眠りにつく。


とっても幸せな気分だ。

これで、菫にも里中くんにも負い目なんて感じずに済む。
このまま徳田さんをどんどん好きになっていけたら、いつか思い出すことすらなくなるはずだわ。








次に目を開けたのは、ベッドサイドについていたアラームでだ。アラーム音が頭に響いて痛い。


「痛い痛い痛い、ちょ、どこ」


痛む頭を抑えつつ、アラームと止めるために体を起こした。
ベッド上方のパネルを操作して止め、落ち着いて時計を見ると九時。軽い吐き気に顔をしかめつつ周りを確認すると、徳田さんの気配がない。

のそのそとベッドから降りると、書き置きと部屋の代金が置いてあった。


【ごめん。急に呼び出されたので先に帰ります。よく寝て体調治るとええな】


「……なによそれ。こんなトコに一人置いてかなくても、言ってくれれば起きたのに」


思わずメモを握りつぶす。

こんなとこから一人で出るのがどんなに惨めか想像付かないの?
減点だわ。

途端に、この部屋の居心地が悪くなって、私は手早く身支度を済ませて、部屋の入り口にあった自動精算機を使って支払いをした。

お釣りはもらっておこう。
痛む頭を押さえながら、こそこそとホテルから飛び出した。

その間、イライラは止まらない。

ようやく彼氏ができたっていうのに。
なんでこんなに寂しくならなきゃなんないの。


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