“毒”から始まる恋もある
「頭、痛くて。やっぱ無理そう」
「頭? もしかして二日酔い?」
「そのようです」
彼は困った顔をしたけど、やがて諦めたように顔をあげた。
「しゃあないわ。焦ってすることでもないしな」
「ごめんね」
「ええよ。じゃあもう少しここで寝る? それとも家に帰る?」
「そうねぇ。もう少し寝るわ」
「ん。俺、昼から用事があるから。悪いねんけど十時には出たいんやけど」
「じゃあ、九時に起こして」
ガッツポーズして叫びたいくらいなのに、なんてこと。
飲み過ぎはよくないわね。でも飲み過ぎたからこうなったとも言うし。
痛い頭を抱えつつ、誰かがいる空間の心地よさに包まれながら眠りにつく。
とっても幸せな気分だ。
これで、菫にも里中くんにも負い目なんて感じずに済む。
このまま徳田さんをどんどん好きになっていけたら、いつか思い出すことすらなくなるはずだわ。
*
次に目を開けたのは、ベッドサイドについていたアラームでだ。アラーム音が頭に響いて痛い。
「痛い痛い痛い、ちょ、どこ」
痛む頭を抑えつつ、アラームと止めるために体を起こした。
ベッド上方のパネルを操作して止め、落ち着いて時計を見ると九時。軽い吐き気に顔をしかめつつ周りを確認すると、徳田さんの気配がない。
のそのそとベッドから降りると、書き置きと部屋の代金が置いてあった。
【ごめん。急に呼び出されたので先に帰ります。よく寝て体調治るとええな】
「……なによそれ。こんなトコに一人置いてかなくても、言ってくれれば起きたのに」
思わずメモを握りつぶす。
こんなとこから一人で出るのがどんなに惨めか想像付かないの?
減点だわ。
途端に、この部屋の居心地が悪くなって、私は手早く身支度を済ませて、部屋の入り口にあった自動精算機を使って支払いをした。
お釣りはもらっておこう。
痛む頭を押さえながら、こそこそとホテルから飛び出した。
その間、イライラは止まらない。
ようやく彼氏ができたっていうのに。
なんでこんなに寂しくならなきゃなんないの。