学園世界のイロジカル
ふ、と息をこぼすだけの笑みを浮かべた柊を少し見たマスターさんは、微笑んで「ごゆっくり」と言って元の位置に戻っていった。





「…俺を助けてくれたのは、龍矢なんだけどな」



「……助けた、って?」



私のより苦いコーヒーを、なんの躊躇もせずにゴクリと飲んだ柊は、何かを思い出すように目を閉じた。



そして再び目を開けると、またコーヒーを一口飲む。




「…俺があいつと初めて会ったのは、4回目のテストん時なんだけどさ。

その時の俺、学生決闘で結構な好成績を残したんだけど、そのせいで変に嫉妬されて。

友達とギクシャクしてた時」




柊、やっぱり昔から強かったんだ…

中1で好成績をおさめる…それってすごいことだけど、もしかしたら周りからしたら面白くないのかも。


でもそんな嫉妬、理不尽だ。



けど……それを責めることは、決してできないと思う。



私も零のことを羨ましいと思うもん。それがちょっと進んだら、きっとその感情は嫉妬になる…




「急にポツリと現れた龍矢のことを、みんなは注目して見てた。

俺もしかり。


テストの後話しかけたら意気投合してさ、仲良くなった。


そしてそのテストの結果発表で、アイツ急に1位になって…」



柊は少し下を向きながら、クッキーを口に含む。


それをゆっくり味わったように食べた後、口を少し開いてまた話し出す。




「……俺のせいで、俺と仲良くしてたせいで、あいつ、不正をしたって思われたんだよ。

なんか俺もう嫌になってさ…


わざと龍矢にみんなの前で怒鳴って、離れようとした。


これであいつも俺に話しかけてこない、二度と。そう思いながら帰った。


正しいことをしたと、そう思ったけど……帰り道は苦しい以外の何者でもなかった」




今まで重苦しかった声で話していた柊が突如、ぷっと吹き出した。


驚いて、思わず顔をあげると…やっぱり、笑ってる。


え、なんで急に…?




「次の日結果発表だから渋々学園行ったらさ、あいつ普通に俺に話しかけてくんだよ。

それにまた強く当たったらさ、あいつ『もう嘘つく必要はない』って…俺の嘘に気付いてたみたいなこと言ってさ。


そしてそのまま2人で教室に行ったら、誰もいない。


驚く俺が龍矢に案内されるがままに学園の練習室に行ったらよ…俺にいろいろ言ってたり、龍矢に不正とか言ってたやつら10人近くが倒れてるんだよ」





そしたら言ったんだ。




『弱肉強食の世界なら、勉強じゃなくてこっちで証明すれば良かったな』




「コイツ危ねえ奴だな、って思ったけど…

……その日から俺らは一緒にいるようになった。

最初から不思議なやつだけど、俺を助けてくれたのは確かにあいつだ。




…けどあれからずっと一緒にいるけど、俺はまだあいつがわからねえや」





クッキーを完食した柊はマスターさんに「クッキー追加ー」と言ってから、私に向き直る。


その顔はなんだか寂しそうで。



……まあ、確かに私も龍矢はよく分からない。


いつもニコニコ笑ってるけど、そのせいかより一層わからない…!!



……何年も一緒にいる柊が分かんないんだもん、私が分かるはずないけどさ。


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