純情女子と不良DK
まぁ、いくら仲がいいとはいえ自分と洋平が……なんて、想像すらできない。というか想像したくない。
けれど、本人には絶対言わないが洋平は顔はそこそこいい。実際高校の時も何人かの女子に告白されていたという噂を聞いていたしこの目で見たこともあった。
そう、結構モテていたのである。それなのに誰かと付き合うとかそんなことは一度もなかった。
改めて思い返すと、不思議だ。
「洋平って今彼女いるの?」
「なになに、気になる?」
「あー、やっぱいいや」
「そのめんどくさそうな顔すんのやめろ地味に傷つくから」
じゃあ最初から普通に言え。洋平の面倒な部分である。
「彼女とかいるわけねーじゃん」
「…へぇ」
「意外って顔だな」
「うん、だって大学だしとっくにそういうのできてるものかと」
彼女ができて、サークルもやって楽しいキャンパスライフを送っている。なんて楽しそう羨ましい!とか思っていたのに。
「好きな奴いるし」
「え、誰が?」
「いや俺が」
「……え、もっかい言って?」
「俺好きな奴いるから」
「ななななんですとぉ!?」
驚きすぎて思わず大きく後退りをすれば、後ろの壁に思いっきり頭と背中をぶつけてしまった。あまりにオーバーリアクションな私に洋平は目を細めた。
「どんだけ驚いてんだよ」
「お、驚くよ…。だって今までそんな話、高校の時ですら聞いたことなかったから。なんか不思議で…」
そ、そうか。ついに洋平も…。
なんだか周りから置いて行かれるような感じだな、と葉月は思った。
今まで恋愛ムードを洋平から感じ取れなかった葉月は、驚きと興味が入り混じった。
「どんな子!?大学の子!?」
「…秘密~」
「なんでー!教えてよ!」
「あ、すいませんハイボール一つお願いしまーす」
「ちょっと!」
それから何度聞いても、秘密の一点張りで洋平の好きな女の子について一切聞き出すことはなかった。なるほど、恥ずかしいから言いたくないのね!
葉月は勝手にそう解釈し、仕方ないと折れた。
***
時刻は22時半。
葉月と洋平は居酒屋から出た。
「お前今日何で帰んの?」
「バス~」
「時間大丈夫か?俺チャリだし、家まで送ってけるけど」
「平気。まだギリ、バス時間あるから!」
一応バスは23時まであるし問題はない。
そのことを言えば、「そっか」と安心したように笑った。普段は軽口ばっか叩いてくるけど、意外と結構優しい。きっとそんな部分も洋平がモテる要素の一つなのかな。
なんて、そんな事を思った。
「じゃ、気をつけて帰れよー」
「うん、また花も誘ってみんなでご飯食べよう!」
「おう!」
そのまま自転車に跨って走っていく洋平の背中を見送り、葉月も帰ろうと足を動かした。
「あ……」
少し歩いたところで考えた。
今日はいつもより結構飲んだ。と言っても4、5杯程度なのだがいつもは2、3杯だ。
ちょっとだけフワフワした感覚に、少し酔いがきたか…と足を止める。
「歩いて帰るか」
酔いを醒ましたいし、夜の散歩感覚だ。
洋平にはバスで帰ると言ったが、まぁ問題ないだろう。葉月は歩いて帰ることにした。
けどその前に、喉が渇いたので水を買いにコンビニに寄った。
アルコールを摂取した後はやっぱり異様に喉が渇くものだ。