純情女子と不良DK
「でも、なんか再就職は考えられないなぁ」
「なんで?」
「んー…なんとなく。大変だし」
「そっか。まぁでもお前が決めることだし、いいんじゃね?」
せめて親くらいは、再就職に口うるさくなってくれさえすれば、やらなくちゃという気になってたのだろうか。
洋平と同じことを言うものだから、少しくらい厳しくしたっていいのでは、とさえ思う。
「あーあ。もう誰か私を養ってくれるイケメンはいないかなぁ~…」
「よく言うよ。彼氏いない歴年齢のくせに」
「う、うるさいな!」
その通りなので反論のしようがない。さすがに二十歳にもなって誰とも付き合ったことないとか、正直どうなんだろうとかこの先大丈夫なのかとか色々心配はする。
「イケメンならここにいんじゃんっ」
「えっ、ちょっとトイレ行って鏡見て来た方がいいよ…?」
「おいコラ!」
自信満々に自分を指差す洋平に冷ややかな視線をおくった。
普通自分で言うか。本当のイケメンは自分のことをイケメンとは言わないんだよ。と言えば「ちぇ」と口を尖らせた。
「告白されたこともないんだっけ?」
「な、ないよ。悪い!?」
「怒んなよ」
「怒ってないし!別に一回くらい誰かに告白されてみたいとか?そんなん思ってないし!」
「思ってんのかい」
「わ、悪い!?」
「お前もめんどくさいですねぇ」
そりゃ自分だって女の子だし、そういうのに憧れを抱いていたっていいだろう。
彼氏いない歴年齢だし。葉月はムッと口を引き結んだ。
「でも葉月、可愛くなくはないからそのうちできんだろ」
「……喜んでいいのか悪いのか…」
可愛くなくはないって、また微妙ラインな。まあ別に自分のことを可愛いなんてそんな事など微塵も思っていないのだが。
「あー…」
「なに?どしたの?」
何か躊躇ってるような、そんな洋平に小首をかしげる。
洋平は頭をかいた後、葉月から目をそらした。え、なに。なんだ。もしかして可愛くなくはないというのはただの気遣いで、本当はめちゃくちゃブスなんだとか?
そんな気をつかわせてしまったのか。
いやまぁ可愛くはないけどブスでもないと自分では思ってたんだけどな、と洋平の様子を見て一人もんもんと考えた。
「や、俺はなんつーか…可愛いとは思うけどな。お前」
「……へ?」
「俺はな!俺は!」
ほんのり頬を赤く染めて、そんなことを言う洋平に葉月までつられて頬に熱が集まる。
可愛い、なんて今まで言われたことあっただろうか。
ない。そんなのない。異性に、ましてや洋平に。そう、洋平に、可愛いと言われたのだ。
高校の時だって、なにかと一緒にいてなんだかんだ仲良かったけどそんな事一度たりとも言われなかった。
途端に葉月は、ハッとして自分の身を守るように両腕で体を覆った。
「洋平、もしかして私のこと…好きなの!?」
「なっ、…はぁあ!?」
「いやいやだって私のこと可愛いって!」
「そんなんで何で好きに繋がんだよ!馬鹿だろ、お前」
ないない絶対ない、と断固否定する洋平。葉月はその言葉にガードを解いた。
「な、なんだ違うのか」
「これだから恋愛経験ゼロは困るよ。おめでたい頭だな!」
「やめてなんか恥ずかしいから…!」
ああもう何言ってんだ私は!と、葉月は恥ずかしくなって片手で顔を覆った。