純情女子と不良DK
「あっ、先輩やっほ~」
「………せ、先輩?」
次の日、いつもと変わらずポン太の散歩に行きドッグランドへ着くと既にいつものメンバーとプラス優聖がいた。
葉月を見るなり「先輩」と言って手を振る優聖に周りは「え?先輩?どういうこと?」と不思議そうに二人を見る。
葉月も葉月で思わずポカンとしてしまった。
「あ、俺と日高さん実は高校一緒で。まぁ四つ違うんすけど実質俺の先輩なわけじゃないですか」
「まぁ!そうだったの?あらぁ~、すごい偶然ね?」
「そういえば優聖は南扇だったなぁ。葉月ちゃんもそうだったのか」
「すげぇっすよね。こうやって卒業生の先輩と会えるとか」
淡々とおばさん達に話していく優聖に葉月はもう苦笑いを浮かべるしかなった。
おばさん達と、そんな会話をしている優聖に構わず葉月はポン太のリードを放して走らせた。
するとそんな葉月の背後からひょこっと現れ顔を覗きこんできたので思わず「へっ!?」と間抜けな声が出てしまった。
「俺のこと無視ですか、先輩」
「そ、その先輩ってやめようよ」
もう卒業してるし、と言えば「え~」と面白くなさそうに文句を言う優聖。
そして昨日、彼に言われた事を思い出す。
「第一、私のこと年上に見えないーとか同い年に見えたーとか言ってたくせに先輩とかよく言うよ」
「あ、気にしてたんですね」
「……ポン太~!お水飲みなさーい!ほらおいでー!」
「話し逸らした」
「………うるさいよ生意気少年。もっと年上を敬ってください」
図星だったのでこの会話を終わらせようとしたが逃がしてはくれなかった。
いくら同い年に見えてしまうとはいえ、こうも砕けた態度を取られると年上としての小さなプライドが許さなかった。
自分も自分で年上としての威厳とやらを見せられたら…と思うものの、なかなか出来ない。
「俺、家この辺なんですよ。あの橋渡ってちょっと行ったところ」
「聞いてませんしぃ」
「世間話しようと思っただけなんですけど」
むっ。なんだかとてもムカッときた。
葉月はわずかに口を尖らせて優聖を睨んだ。当の本人は「え、なにその変な顔」と真顔で言ってきたので一発殴ってやろうかと思ったがやめた。相手は高校生。それに不良少年だし。下手なことしてやり返されたりしたら……ああ怖い。
まぁこの少年がそんな野蛮な事を自分にするとは思えないけど。多分。
「私は反対側。そこのスーパー見えるでしょ?それ越えた所」
「へぇ。結構俺ら近い距離に住んでるんですね。俺あそこのスーパーたまに行きますよ。買い出しとか頼まれて」
「えっ!そうなんだ?じゃあもしかしたら知らないうちに会ってたりするかもね」
これもまた不思議な偶然だ。
まぁこのドッグランドに来る人達は大体この辺りに住んでいる人だったりご近所さんだったりするし、そこのスーパーを利用する人がほとんどだ。
こうやって自分の後輩にあたる人物と会えたのも、ほんとに不思議な偶然だなと思った。
「若いっていいねぇ」
「羨ましいわ~」
そんな葉月と優聖を見てどこか楽し気に顔を綻ばせているおばさん達に優聖が何故か無言でピースを向けていたのでギョッとした葉月は両手をぶんぶん振った。