純情女子と不良DK
母も父も、急に仕事を辞めてしまったこと(正確にはクビ)を怒ったりするどころか労わってきた。
二人が優しすぎることはじゅうぶん知っていたし、花や洋平も言っていた。
(まぁ、殴ってクビになっちゃったってのはまた今度話そう…)
「これを機に、しばらくゆっくり休んだら?お母さんもお父さんも別に無理に働けとか言わないから。生活に困ってるわけでもないし」
「今後のことは、どうしたいか自分でゆっくり考えるといいよ」
「二人ともほんと優しすぎて時々辛い」
「あら、じゃあ厳しくいく?」
「それも嫌だ…」
あからさまに嫌そうな表情を向ける葉月に、母は「でしょ?」と笑った。
「ていうか、私やつれたの…?」
「やつれたやつれた。残業ある日は23時まで。そんなのがしょっちゅうあったんじゃ、やつれるだろ」
「そ、そっか。全然そんな気しなかったな…。疲れとかは全く取れなかったけど」
「まあ、明日からぽポン太の散歩してくれるんでしょう?よろしく頼んだわよ」
「あっ、うん!」
「ほらはやく着替えてらっしゃい」
「はーい」
…いつまでもクビになった事を引きずってたってどうしようもない。
この際、今まで多忙だった分ゆっくりのんびりしようじゃないか。じゅぶん休んで、これからどうするかまた考えよう。
今は、休暇だ。休暇。
そう考えたら、何だか少し肩が軽くなった気がした。
それから一週間経ち、葉月は毎日のようにポン太を散歩させていた。
ドッグランドに行って色んな犬達と遊ばせ、飼い主達と会話に花を咲かせながらゆったりした日々を過ごしていた。
そんな今日、16時前。葉月はまたポン太と散歩に出かけた。
「あれ~?」
ドッグランドに着いたが、今日は誰もいなかった。
「残念。ポン太、今日はお友達いないね」
「ワン!」
「あ!ポン太!もう、先に行かないで!」
リードは放した途端、元気よく駆け出していくポン太の後追うように葉月も走り出した。