純情女子と不良DK
「ん?おい、どしたー、優聖」
「ああ、いや。何でもないんだけどさ」
学校からの帰り道。友人の塚本良介(つかもとりょうすけ)と帰っていた成瀬優聖(なりせゆうせい)は帰り道である橋を渡っている途中で自転車をこぐ足を止めた。
なんでもない、と言いながらその視線の先にはある少女にとまっていた。
橋の下に見える広場。この近辺に住む愛犬家達の集うドッグランドだ。そこに、愛犬と一緒になって走り回る少女がいたのだ。
「なになに~?なんか面白いもんでも見つけた~?」
良介は優聖の元まで自転車をバッグさせ、その視線の先を追う。
その視線の先の人物が目に入った途端、良介は「はは~ん」とニヤニヤし始めた。
そして優聖の腕を肘で突っついた。
「いやぁ~、青春ね~」
「……は?」
「俺、応援するから…!」
「何か勘違いしてね?」
キラキラとした目で肩に手を置いてくる良介に目を細めた。
明らかに勘違いしてる、コイツ。と、呆れたように溜め息をこぼす。
別にそういうんじゃないから、と言うとあからさまにガッカリしたように口を尖らせた。
そして再び少女へと視線を戻す。
「あの子、最近あそこにいんだよね」
「へぇ~」
高校に入学してから一か月になろうとしていた。通学も帰り道も必ずこの橋を通っていたが、少女の姿は見たことがなかった。
それが最近になってほぼ毎日のように広場にいる。
子供のように愛犬と楽しそうに全力で駆け回る無邪気な少女の姿が、何となく気になっていたのだ。
「……あ、転んだ」
「ははは!ワンコが心配してクルクルまわってる!」
ついには派手に前から転んだ少女。
その周りを、ワンワンと吠えながらまわる愛犬。なんだか少し面白い光景で、優聖も思わず小さく笑った。
少女はムクリと起き上がると、心配ないとでも言うように愛犬の頭を撫でるとそのまま立ち上がり、また駆けだした。再び少女と愛犬の追いかけっこが始まった。
遠目から見て、無邪気で元気そうな子だと思う半面、馬鹿そうな子だなと思った。
しかし、自分も愛犬家。家にいる我が愛犬を思い出し少し考えた。
そして少女のいる広場を見つめる。
(俺も今度あそこ行ってみよっかな)
そうしたら、あの馬鹿っぽい少女に会えるのだろうか。
特に意味は無かった。ほんと、気分だ。
「そろそろ帰ろうぜ~」
「あ、わりっ」
少女から視線を離し、自転車をこいだ。