純情女子と不良DK
「あっ、今日はいっぱいいる!良かったねポン太」
毎日の日課になったポン太の散歩。
昨日は誰もいなくて少し寂しかったけれど、今日はたくさんいた。
葉月はリードを放し、ポン太を走らせた。
数匹の犬達の追いかけっこが始まった。
「ポンちゃんはいつも元気だねぇ~」
「最近毎日ポン太ちゃんくるから嬉しいよ」
他の犬達と楽しそうに駆け回るポン太を見て飼い主の人達も楽しそうに笑う。
「元気過ぎて少し困っちゃうくらいですよ」
「元気なのが一番よ~!」
「そうそう。俺んところのボブなんて走りまわりゃしないからね。大人しすぎるんだよ」
そう言った男の人の愛犬であるボブは、言われた通りのとても大人しいトイプードルだった。
ポン太も同じトイプードルだけれど、テンションの差はあまりに違う。
大人しく地面に座っていたボブの元へポン太が駆け寄り、遊ぼうと言わんばかりにボブにじゃれていた。
「こらポン太!ボブちゃん嫌だってー!」
「ああ、いいよいいよ。逆にあれでボブのテンションも上がってくれるかもしれないし」
小さな望みである。その目はどこか遠くを見つめるような目で、葉月は「よーしポン太もっとやれー!」と声をあげた。
それもしばらくして飽きたのか、ポン太は葉月の元へ駆けて足元にすり寄って来た。
葉月はしゃがんで、その頭を撫でた。
「よしよし、楽しいね~」
いい子いい子、としばらく撫でて、ふと顔をあげると前方からまた犬を連れた男の人がやってきた。
今の時点で七匹はいる。今日は本当にたくさんいるなぁ、と思いながらこっちへ向かってくる人をボーと眺めた。いつも来ている人かな、とジッと見たが距離が近づいてその人が知らない顔だと気付いた。
(…というか、学生?)
今こっちに向かっている男の人…いや、男の子は多分高校生くらいだろう。
今時の男子高校生感を、葉月は察知した。
普段、此処に来るのは主婦層の人達ばかりだし自分以外に若い人が来たことにも少し驚いた。
「こんちわっす」
「…ああ!優ちゃんじゃない!成瀬さんところの!」
「いつもお母さんの方が来てたけど、珍しいね優聖君が来るの」
「久しぶりです。まぁ今日はちょっと俺が行こうかなって」
(顔見知りだったんだ…)
優聖、と呼ばれる少年。仲良さげに会話に溶け込む姿に“意外”と思ってしまった。
ぼけー、とその様子を見ていると、少年がこちらへ振り返ってきて目があった。
やば!と、葉月は咄嗟に目を反らし背中を向けた。
…あれ、なんでやばいとか思ったんだろう別にやましいことなんて無いのに。そう思いながら、どうか私のことは気にしないでくれと念を送ってみた。
…のだが。
「あの、すいません」
「!? えっ、あ、はい?」