純情女子と不良DK
「失礼しまぁす…」
誰もいない優聖の部屋の扉を開けて、ソッと静かに恐る恐る部屋の中へ入った。
パタン、扉を閉めてその扉に背中を預けながら部屋の中を見渡す。
ここに来るのは、2回目。けれど違うのは、ひまり達がいないということ。つまり、優聖が帰って来てしまったら…。
「二人…きり……」
そう思ったら途端に緊張してしまい、葉月は勢いよくその場にしゃがみこんだ。
両手で顔を覆って「うぅ~~」と呻き声をあげる。なんとか緊張を紛らわそうと思ったのだが、ダメだった。
異性の部屋で異性と二人きりなんて、初めてだ。洋平ですらないというのに。
いくら年下の高校生とはいえ、いくら恋愛感情を抱いていないとはいえ、異性は異性だ。
ゆっくりと顔を上げて、ムッと口を引き結ぶ。
きっと今、どうしようもない情けない顔をしてるんだろう。
「ううぅ~ダメだ!落ち着かない!」
スクッ、と立ち上がり部屋を再びキョロキョロ見渡す葉月。
そして目に入ってきたのは、本棚にある優聖の卒業アルバム。この前の勉強会ではちょっとしか見れなかったものだ。
葉月はしばらく悩んだが、こうやって待たされてるんだから見るくらい許してくれるでしょ!ということで本棚のそのアルバムを手に取った。
「よいしょ、と」
そのまま部屋のベッドに腰掛けてアルバムを開く。
中学時代の優聖は今と比べて幼さがあって、可愛らしい感じがする。良介と一緒にいる写真が多いから、本当に二人は仲が良かったんだなと思う。
その周りには、やはり可愛い女の子達も集まっていて、きっと目立つグループだったんだろう。
ページをめくって真剣に見ているうちに段々と眠くなってきてしまい、葉月はゴロンとそのままベッドに横になりながらアルバムを見る。
「私がこの時同じ空間にいたら…きっと住む世界が違ったんたろうなぁ」
クラスで人気者でモテて、目立つグループにいる優聖と、平凡で普通な自分。
きっと話すことはおろか、名前を認識してもらうことさえ無いかもしれない。こんな風に家に行くことも。
***
「ただいまー」
「あ、優ちゃんおかえり~。買い物、急にごめんねぇ」
「いいよ別に」
程なくして買い物から帰って来た優聖。
靴を脱いでる途中、この家のものでない女物の靴があるのに気がついた。
「もしかして日高さん来てる?」
「とっくに来てるわよー!はやく行ってあげなさいねー。優ちゃんの部屋で待たせてるから!」
「まじか」
居間から顔を出してそう言う母に優聖は小さく頭をかく。優聖は早足で荷物を居間へ運ぶとそのまま葉月が待つ自室へと向かう。
そんな優聖に、母から「ちょっと待ちなさい」と呼び止められ、振り返る。
どこかニヤニヤとした表情になんだか嫌な予感がしたのは言うまでもない。
「二人きりだからって、えっちなことしちゃダメよ~?」
「………」
「そんな睨まないでよ」
変なことを言い出す母に思いっきり睨めば母は口を尖らせる。誰が襲うかよ、と心の中で言葉にし、それ以上何を言うでもなく自室へと向かった。
その足取りは、どこか軽くも感じる。
今日、葉月を家に呼んだことに特にこれといった意味はなかった。勉強はもう別にやらなくてもいいし、じゅうぶんやった方だ。
あの時、彼女に電話をかけた日。
その口から出た〝洋平〟と呼び捨てる名前に面白くないと感じた。そこから気づけば家に来いなんて言葉が出ていたのだ。
お気に入りのおもちゃを取られた。例えるならこんな感じだろうか。
「……つか、呼んだはいいけどそっからどーすんだ」
全く考えていなかった。