純情女子と不良DK

「……はっ?」



自室に入るなり、思わず間の抜けた声が出た。視界に映るのは、何故か自分のベッドでスヤスヤと眠る葉月の姿。
その横には開かれた卒業アルバムがあり、おそらく暇潰しに見てるうちに眠くなったのだろうと解釈した優聖だが……。



「普通寝る…?」



はぁ、と思わず溜め息がこぼれてしまった。そのまま脱力するように壁にもれかかる。一応男である自分の部屋のベッドでこうもぐっすり眠られるとは。
なんだか物凄く複雑な心境だった。
また一つ溜め息をこぼすと優聖は眠る葉月の元まで行き、しゃがんでその寝顔を覗きこんでみる。



「おーい、日高さん」

「…んー……」



試しに小声で名前を呼んでみるが起きる気配は無し。
まるで自分の部屋かのようなくつろぎっぷりに、「これは完全に男として見られてないな」と思う他なかった。それはあまりに面白くない。



「日高さん」

「………」

「一応俺も男なんですけど」



もちろん、応答はない。
寝てるのをいいことに、まじまじとその顔を見つめてみる。こんな至近距離で見たのは初めてだった。
歳不相応な幼い顔立ちに、白く綺麗な肌。肩までかかるふわふわした髪の毛が顔にかかっていたので、優聖は手をのばしてその髪に触れて耳にかけた。



「………」



そのまま、彼女の頬に手を滑らせた。
気持ち良さそうに眠るその姿はまるで子供のようにも見える。
優聖の手に頬を擦り寄せてきたところで、ハッとして手を離した。



「何やってんだ俺」


けど、そもそも人の部屋で無防備に寝てるのが悪い。
優聖はどこかムッとした表情で、葉月が眠るベッドに腰掛けて彼女を見下ろす。ちょっとした悪戯心のようなものが発動した。
未だに起きないのをいいことに、葉月に覆い被さったのだ。

彼女の頭の横に肘をつき、至近距離になる。
端から見たら、無防備に寝てる女を襲ってるいやらしい男に見えるだろう。
全然全く起きる気配が無さすぎて、優聖は段々アホらしくなってしまいそのままゴロンと彼女の横に寝転がった。


「………ねむ」









***




「ん………え、私寝てた…?」



パチリと目を開けると視界に映るのは白い天井。しばらくボッーとして思い出した。
そうだ。優聖が来るまで卒業アルバムを見ていたら眠くなってきてしまい、そのまま眠ってしまったのだった。



「もうー…人様のベッドで何寝ちゃって…………え…?」


思わぬ失態に反省しながら起き上がって、ふと横を見た途端、ピシリと石のように固まった。




「う、嘘、えっ!?」


自分の隣で横になって寝ている優聖がいたのだ。
いや、もちろんこのベッドは彼のものなんだから、自分のベッドで寝るのはおかしなことじゃないし普通だ。
けれども!けれども、だ。



「い、一緒に隣で寝てた……?」



それ以外ないだろう。
でもなんでわざわざ隣で……。いや、そもそも人のベッドで勝手に寝てた自分が悪いのだが。それにしたって一緒に寝るか普通は…。
異性と同じベッドで一緒に寝るだなんて。そんなこと父を除いて、生まれて一度もしたことないっていうのに。
葉月はどうすることもできず、ただ固まったまま隣で眠る優聖を見つめていた。
すると、優聖が「ん…」と小さく声を出したと同時にその瞳がゆっくりと開かれる。
お、お、起きた…!!と、葉月は内心パニック状態だ。顔も熱くなっていく。




「あれ、起きてたんですね」

「え、あ、あの、これは、あの」

「口パクパクしすぎ。魚かよ」

「ご、ごごごめんなさい!!勝手に寝ちゃって…わっ!」

「ちょ、危なっ!」



反射的に勢いよく後ろへ下がり、危うく背中から床に落ちそうになったところで優聖が慌てて起き上がって葉月の腕を掴み引き寄せた。
おかげでベッドから落ちることは免れたが優聖と葉月の距離はわずか数センチだ。
これほどまでに近づいたことなんてないせいで、葉月の心臓は馬鹿みたいにドクンドクンとうるさく鳴り響く。
そんな葉月の様子に気づいた優聖はパッと手を離して降参のポーズのようになる。



「すいません。一応起こしたんですけど、全然起きなかったんで。俺も眠くなって、つい」

「あ、いや…成瀬君が謝ることじゃないよ!うん!私が勝手に人のベッドで爆睡してたのが悪いんだし!」




何故か正座して優聖と向き合う葉月。
なんだかおかしな絵面のような気がする。恥ずかしさで視線が定まらず、あちこちさ迷わせてしまい、明らかに挙動不審だ。



「日高さん顔真っ赤」

「そっ、そりゃなるよ…!!ならない方がおかしいよ……!もう!」

「ありゃ、怒った?」

「怒ってないけどさ!」



さすがはイケメン。こういう場面でも赤面しないどころか普通だ。こっちは歳上の余裕なんて見せることすら出来ない。
なんだかとても悔しい気分だ。
全くもう、なんだ、とぶつぶつ心の中で文句をこぼしながらベッドからおりて床に座る。



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