純情女子と不良DK
予想外にも、その少年がこっちに近付いて声をかけてきた。
驚いて肩を揺らし、おそるおそる振り返る。
目の前にはさっきまでおばさん達と話していた少年。
間近で見ると、あっすごい顔立ち整ってる…なんて余計な事を考えてしまい慌てて頭を左右に振った。
けれど、整った顔立ちをした…そう、まさしくイケメンの部類に入る顔だ。
少し癖のある焦げ茶の髪が風で揺れている。
こういった“かっこいい”人に見られるのはどうも慣れない葉月は目線を横へずらし、バレないように一歩後ろへ下がった。
「えーと、なんでございましょう」
「よくここ来るんですか」
「え?あ、ああ…うん、まぁ」
「俺の犬、マルです。そっち名前なんですか」
「ポン太…です。あの凄い走りまわってるトイプードルの」
と、また元気よく走りまわっているポン太を指差した。
「めっちゃ元気っすね」
「いつもあんな感じです。…そっちはマルチーズ?」
「マルチーズです。そんで、マル」
葉月は目を丸くした。そして、思わずブッ、と笑ってしまい慌てて口を両手でおさえた。
「や、笑っても大丈夫です。よく言われるんで、単純じゃね?って」
「す、すみません」
「謝んなくていいっすよ」
マルチーズだから、マル。
本当に、単純でそのまんまだ。決して馬鹿にしているわけではないんだと弁解すれば、少年は“気にしすぎです”と小さく笑いながら言った。
葉月も、あはは…と苦笑いしながら目線を下へさげる。
そして沈黙が走る。
こう会話はここで終わりかな、と思い少し気まずくなり少年から離れようとした時。
「あっ、てか名前、聞いてもいいですか」
「……え?」
名前…?葉月は小首を傾げた。
「えっと、さっきポン太って…」
「いや犬の方じゃなくて」
「…あっ、もしかして…私の?」
自分の方を指差せば、少年は頷いた。
「俺多分、これから結構ここ来ると思うんで。そしたら俺らも会うだろうし、名前知っておきたいんで」
「……」
「嫌ならいいんですけど」
「い、嫌ではない!です!うん、あの、ちょっと驚いただけで。えっと、日高です。日高葉月」
「成瀬優聖です」
成瀬優聖、そう名乗った少年、優聖は小さく笑った。
その笑みに思わず見とれそうになってしまい咄嗟に目をそらした。
そして小さな声で「また会ったらよろしくです」と言った。