SAKURA ~sincerity~
「拓ちゃん、連れてって……」

「凖……」

 消え入りそうなか細い声で、七海が準平の胸に顔をうずめる。史朗が医師を振り返ると、医師は唇を噛み、静かにうなずいた。

「……行こう」

 拓人の言葉を合図に、看護師たちの手により、桜の腕から点滴やモニター、血圧計が外される。拓人がゆっくり桜を抱き上げると、桜が呟いた。

「ウィッグ……取って」

 弱々しく桜がサイドテーブルのウィッグを指差す。その声に七海が慌ててウィッグを取り、桜の頭に装着した。

「拓ちゃんに告白した……あの、桜が見たい……」

「……判った」

 泣き崩れそうになっている弥生を史朗が支える。

「車出す」

 そう言って、準平が史朗たちに一礼した後、七海の腕を取って先に病室を出て行く。拓人も史朗たちに頭を下げると桜を抱き上げたまま、病室を出て行った。




「学校には連絡したから」

 桜を抱え、後部座席に乗り込んだ拓人に運転席から準平が声をかけた。七海は既に助手席に座り、拓人の腕の中で目を閉じている桜をじっと見つめていた。

「行くぞ」正面に視線を据え、準平がそう声をかける。

「ああ」夜の駐車場に静かにエンジン音が響き渡り、バンが発進する。拓人は車の振動が桜の負担にならぬよう、しっかりと桜を抱き締めた。

 病院を出た車が桜並木に差し掛かる。桜がよく見えるよう、準平が窓を開けた。

「見えるか……?」

「うん……」

 拓人の問い掛けに桜がうなずく。

「綺麗……」

 花見用の雪洞をつけた夜桜が、雪洞のソフトな光に照らされ、妖艶な美しさを放ちながら四人の乗った車を包む。桜はその様を本当に嬉しそうに目を細め、じっと見つめた。

「ありがとう、準ちゃん」

 桜がゆっくり準平に礼を言う。準平は何も言わず、ハンドルを握り締めた。

 桜。

 包んだ腕から伝わる桜の温もり。

 ごめんな、桜。

 拓人は桜を抱く腕に力を入れ、夜空を埋める妖艶な桜を見上げた。




「着いたぞ」
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