銀座のホステスには、秘密がある
「何?私に弟子入りしたい?」
「お願いします。龍太郎ママの一発芸をアタシにも教えて」
「あんたねー。あれは教えるもんじゃないのよ。盗むものなの!」
小さな扇子でペシと肩を叩かれる。

「盗んでいい?」
「だったら……ねぇ。サラ」
ニヤリと笑う龍太郎ママ。
背中にゾクリと悪寒が走った。
移ってきなさいよ。って目が言ってる。

「いやー。さっきのは俺は好きだったけどな」
「でも。あれは殿しか笑ってなかったじゃないですか」
「あらぁ?殿ぉ?あんたたち、もうそういう仲なの?」
龍太郎ママの大きい顔がずいと近寄ってくる。

キャプテン末永が帰ると同時に、殿にアフターに誘われた。
今日のモンテカルロは混み合ってるから、他でゆっくり話したいって。

お店の方には無理言って、早めに上がらせてもらい、そしてやってきたのがクラブ龍太郎。

「そうですよ。さっき殿と決めたの。ねぇ」
得意の営業スマイルで、首なんか傾げて、殿に腕組みしてみる。
なのに、その腕を解かれた。
「ええよ。もう仕事は終わり。普通のおまえと話がしたかったんだよ」
殿はアタシの方なんて見ないでそう言った。

普通のアタシ?
これが普通なんだけど……

「さっきの物真似良かったぞ。俺は丸ノ内線の始発のアナウンスなんて聞いたことないけど、そうなんやろうな。って思った。電車が好きなのか?」
「ううん。それほど、好きって訳じゃ……」
「じゃ、サラの好きな物ってなんだ?」
「うーん。なんだろう」

これと言って趣味なんてなかった。
強いて言えば仕事が趣味みたいな。
自分磨きかな……

「私の好きな物はね。可愛い男よ」
龍太郎ママが口元に手をあててそう言った。
その大きな指には更に大きな黒い石がついた指輪。

「へぇ。そうなんだ」
「あら?意外って感じね?」
「男より金かと思った」
「やぁだぁ。上杉ちゃん。確かにお金は好きだけど。それだけじゃ人生楽しくないでしょ?」

今日は藍色のグラデーションが下の方に入ってる着物姿の龍太郎ママ。
そのお着物もかなり高そうなんだけど、

「上杉ちゃんは?」
「俺は、やっぱり歴史かな。特に戦国時代。いいねぇ。憧れるよな。織田信長公とか、最初は小さな国の殿様だったんだぜ。それが最後は日本を統一しそうになったんだから、あの人ほんとすげーよな」

まただ。
この人、ほんと歴史を語りだしたら止まらないんだ。
好きなんだね。
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