銀座のホステスには、秘密がある
翌日、アタシが出勤するとバックルームがいつもと違う雰囲気で、
入口に数人が立っててみんな心配そうな顔で中を覗いていた。

「おはよう」
「あ。サラさん」
アタシの声にその場にいた娘たちが一斉に振り向いた。

「サラ。おはよう。あの、ちょっとさ……」
樹里が言いにくそうな顔をして奥を見る。
そこには睨み合っている彩乃さんとハナちゃん。

「どうしたの?」
周りの娘たちがアタシに道を空けてくれて、メイクルームの奥に入っていくと、
「だって、彩乃さんが……」
口を尖らせてハナちゃんが訴えてくる。

「でも、最初に気が付いたのは私で……」
彩乃さんが負けじとハナちゃんに言ってる。
普段の癒し系の彩乃さんとは思えないくらい。

「だけど、これはハナの仕事なんです」
「でも私だってサラさんについてるんだから」
「最初に妹になったのはあたしなんです」
「気が付いた方がやってもいいでしょ」

なんだか険悪な雰囲気。
これからお仕事なのに……

「何があったの?」
「私が水を入れに行こうとしたら……」
と彩乃さん。
「でも、それはハナの仕事なんです」
横から訴えてくるハナちゃん。
その手には加湿器のタンク?

「サラの加湿器のやつを奪い合っちゃって。どっちでもいいってそんなの」
樹里が呆れたように言う。

イライラする。

「貸して」
奪うようにハナちゃんの手からタンクを取ると、
「わ、私が行きます」
彩乃さんが言ってきた。

「いいから。これくらいのことで仕事の前に揉めないで。こんな雰囲気じゃみんなもイヤな気分になるでしょ」
「……」
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