Fly*Flying*MoonLight

PM2:00 病室

「な……」
 何を言ってるんだ、楓!?
 俺は楓の目を見た。真っ直ぐにこちらを見ている。何の迷いもない

「しかし……」
 じーさんが戸惑ったような声を出した。当たり前だ。二十二年前の別荘の火事も、今回の火事も、裏にいるのは武田の叔父だ。そのくらい、じーさんも予測がついている。
(自分も死にかけたっていうのに……何を……)
「……お願いします」
 楓がベッドの上で頭を下げた。
「武田様は……あのお屋敷が、お好きなんです」
「……」
「お母様が生きておられた頃、一生懸命に掃除されていた……、和也さんのお母様と一緒に遊んだ、あのお屋敷が」
「楓……お前……」
「……武田様の本当の願いは、ただ一つ。おじいさまに、息子だって認めてもらう事です」
 じーさんの目に、驚愕の色が浮かんだ。
「お母様の願いで武田姓なんだって、武田様ご存じないんです。自分がおじいさまに認められていないから、九条じゃないんだって、そう思われてるんです」

 ……楓がじーさんの瞳を見る。
「……武田様の心の隙間を埋められるのは……おじいさまだけです」
「……」
 じーさんは、黙って楓を見ていた。

 楓……あいつの心、を読んでる……のか!?

 楓が俺を見る。全てを見通すかのような、澄んだ瞳。綺麗……だ……。
 楓が俺の袖を引っ張った。俺の耳元で、ある言葉を囁く。

 ……参った。完全に……楓に降参、だ。

 俺は楓の肩に手を回した。
「……俺からも頼みます。お祖父様」
 じーさんが驚いたように俺を見た。
「和也……お前は、それでよいのか?」
「はい」
 楓を見つめる。温かな何か、が心に溢れてくる。
「楓が望むなら……俺は構いません」
「そう、か……」
 じーさんは遠い目、した。
「……さすがは、マリーさんのお孫さんじゃな……」
「え?」
 楓が不思議そうにじーさんを見た。
「マリーさんも……時々、全てを見透かしたかのような事をおっしゃられてましたぞ」
「……彼女の言葉は、いつも優しかった……今のあなたのように」
「……おじいさま……」
 じーさんは目を瞑り……そして、目を開けて、楓を見た。

「……わかりました。譲司とは話をしましょう。家の事も……楓さんの思うように」
「ありがとうございます、おじいさま」
 楓がうれしそうに笑った。

 ……この笑顔。
 この笑顔があれば……俺は何だってできる。
 楓が、少し照れたように言った。
「あの……もう一つお願いがあるんです……」
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