Cry for the moon
初めて切なさに胸を焦がした片想いの恋が、叶う事なく終わりを告げた。

一度はこの手を伸ばして捕まえたはずの恋が、サヨナラの一言も言えないままで、指の間をすり抜けて行く。

リュウトは精一杯の強がりで、いつもの別れ際と同じような顔をして、“じゃあ、またな”とは言わず、“じゃあな”と言った。

自分らしくはなかったかも知れない本気の恋をせめて自分らしく終わらせたかった。

「アユミ…。ホントに…好きだった…。」

一度も呼べなかった彼女の名前を口にして、もうアユミに届く事はないその一言を、リュウトは噛みしめるように、静かに呟いた。





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