MAHOU屋
夜は嫌いだ。


静かで、寂しくて、暗くて、自分ひとりしかこの世にいない。
そんな錯覚を覚えてしまう。
早くひとりで眠ってしまいたいのに、夜が邪魔をする。


「チヒロ?」


作業が終わったようで、レインさまが名前を読んだ。
あとは焼きあがるのを待つだけだ。
心配させないようにチヒロは無理やり、笑顔を作る。


「ねえ、どうして今日はスキムミルク使うの?」
「チヒロは相変わらず賢いね」


バニラクッキーは他にも、卵を使ったものや、砂糖の代わりにグラニュー糖やきび糖を使ったもの、アーモンドパウダーを使うものもあったりと、バリエーションは豊富にある。


「スキムミルクを使ったものが、一番乳臭い気がするから」
「乳臭い?」
「勝手にやってろってことかな」


ハーブのことも聞くと「砂糖の百倍の甘さだから」と教えてくれた。


乳臭くて、甘い。


一体どんな<恋>なんだろう。



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