ユウウコララマハイル
「今日は栞を直して欲しいの」
「さすがに栞は直せませんよ」


栞の本体、紙はダンボールのように丈夫なもので陽に焼けて褪せているもののご健在。
問題は栞に張りついている三つ葉のクローバーだ。
かつては立派な四葉だったらしい。


「これはこちらで購入したんですよ。引っ越してすぐの頃だから、十年以上前になるかしら。買ってからというもの、幸運続きでねぇ。逆子だと診断されていた孫が無事に産まれてきたり、息子が家をプレゼントしてくれたり、ご近所の人もよくしてくれてねぇ、この間なんて子犬をプレゼントしてくれたんですよ」


「可愛いでしょう、このマメ柴」と写真を土橋は見せた。
それをカウンター越しに受け取る。


「私も見てもいいですか?」


まだ見てなかったが、先に中村に譲ってやる。


「本当、すっごく可愛い。目がくりっとしてて、尻尾を振って喜んでいる様子が写真からでも伝わります」


そうでしょうと土橋は目元を細める。


「話を隣で聞いて―――盗み聞きしてすいません―――聞いていて思ったんですが、逆子だったお孫さんのことは人智では計れないものがあるとしても、息子さんが家をプレゼントしてくれたことやご近所の人がよくしてくれるのは、おばあさんの人となりだと思うんです。だから四葉のクローバーのお陰ということではないと、思いますけど」


土橋は「でもねぇ、不安なのよ」と手元の紅茶に視線を落とした。
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