ユウウコララマハイル
「こりゃあ、見事な売り場だね」
「どうしても売りたい商品なので、ちょっと力込めました」
「これはナツミちゃんの手製―――ではないよね?」
「もちろんです。なので大変申しわけないんですけど、依頼されたぬいぐるみはまだ時間がかかりそうです」


ごめんなさいと頭を下げるとマスターは制止するように両手を胸の前で広げた。


「いや大丈夫だよ。もとはといえば僕がわるいんだからね。でも気落ちしているわけじゃないから安心して。カケルに新しい才能があることを知ったから、今気分的に嬉しいんだ」


ナツミは疑問符を浮かべながら、レジに移動する。
客注棚から雑誌を探し「どうしてですか」と訊く。


「うちのお店でもこんなに可愛いディスプレイの中で商品が並んだら、ハルさんも喜ぶんじゃないかなって」
「それはいいですね! お客さまも喜ぶと思いますよ。ラッキーまみれですね」


ナツミは意地のわるい笑みを浮かべて、口元に手を当て囁く。


「販売側にもメリットがあるんですよ。古沢が手伝ったコーナーは売り上げも上がるんです。百パーセントの確立で完売です」


ナツミの表情がよっぽど悪人顔だったのか、マスターが噴出した。
その柔和に戻った顔に安堵する。


「マスターが依頼したぬいぐるみも、ラッキーまみれで戻ってくると思います。ただちょっと悩んでるみたいなので、まだかかりますけど」


古沢はぬいぐるみの前で腕を組んでいる時間が長い。
家に帰ってから寝るまで、平気で三・四時間くらいそうしている。
苦肉の策で相当使い込まれた古文書を引っ張り出していたこともあるのだが、決定打がないらしい。
古沢の様子をこっそり覗いていたナツミはチャンスとばかりに「息抜きしたら」と手伝いを依頼したのだ。
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