ユウウコララマハイル
しばらくして起きた古沢は案の定、飲み屋で会計した辺りから記憶がないようだった。
これはとてもラッキーなことだ。
ナツミは酒の抜け切れていない古沢の差し障りのない汚点を並べ、残りは伏せた。
その伏せた代償に、古沢の過去を聞きだした。


やっぱり広瀬と同じだ。


純粋な日本人から産まれているはずなのに、外見は異なる。
そして曾祖父が泡になって消えているのだそうだ。
そんな曾祖父の血を受け継いでいる古沢は天使に近いものに違いない。


酒のせいか愚痴のように淀みなく喋る古沢の言葉にナツミは苛立った。
境遇は同じでも、性格は広瀬とは正反対。
僻みっぽい、意地け虫。
ナツミはこれ以上シラフで聞く自信はなく、冷蔵庫から缶ビールを取り出し煽った。


「アンタね、自分が一番不幸だとか思ってんの? 自分が一番可哀相だとでも思ってんの? どんだけ自分が可愛いんだよ。そもそもアンタにとって不幸ってなに? ラッキーが続いてる人が幸せだとか思ってんの? あのねー、アンタ、ばか? ラッキーが続く人が幸せだとは限らないでしょ。宝くじで高額当選したって、そのあとのお金の使い道で苦労する話、聞いたこと多いでしょ」


古沢は屁理屈しか返ってこない。
自分はこうして生まれたから、不幸なんだと。
だから今でも不幸続きなんだと。
それは職場環境のことも差すのだろう。
ナツミは苛つくたび、一本また一本と缶ビールが空いていく。


「幸福とか不幸とか、そんなの自分が決めることなんだよ。他人なんか関係ないね。自分の気持ち次第だよ。アンタがここにいるだけでラッキーなんだよ、どうしてそれに気づかない。もし私が拾ってなかったら、留置場に一晩泊まることになってたかもしれないのに。それが会社に知れたらもっと居心地わるくなるんだよ。どうしてそれに気づかないの」


幸運な人は幸せだと直結する。
そんな思想に辟易する。
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