ユウウコララマハイル
「奥さんが不思議がっていたんだけど、旦那さん四葉を見つけるのが得意なんだって。それだけじゃなく、これ不思議なアングルだろ。加工してるんじゃないんだってさ」


四葉の群生地帯があるらしい。
写真いっぱいに広がる四葉たちは天高く空に伸びていく。


「わざと狙って撮ってるんでしょうね、これ」
「そうそう、まだまだ伸び盛りなんだ、だから採らないでねって感じがするだろ?」


カケルは黙って頷いた。


「そのご主人、足が不自由らしくて車椅子なんだってさ。奥さんや子供さんの手を借りて、地面を這いながら空を見上げる写真を撮るのが趣味らしい。どんな気骨の持ち主かちょっと気になって、本人に会うことができたら置きましょうって話。僕がお宅に伺いますよーって言ったんだけど断られてしまってね」


よかったよ、店バリアフリーにしといてとマスターは屈託なく笑った。


「おっ、三時。イッちゃんの迎えの時間」


マスターはわざとらしく腕時計を見た。
予定日を迎えたマスター婦人は、用心のため生家に身を寄せている。


「僕待ってなくちゃいけないから、カケル宜しくね。接客は任せて」


夕方から団体の予約が入っているので松本が厨房で臨戦中だ。
すでに支度を終えている真智が補佐に入り、さらに今日はマスターの叔母がヘルプに入っている。
マスターはこの店をその叔母から譲り受けており、勝手知ったるなんたらで、カケルよりも戦力になっている。
器用に卒なくこなせるカケルだったけれど、邪魔扱いされたのだから仕方がない。


はいはい、わかりましたよと半ば投げやりで店から出ようとすると「忘れ物」とマスターは椅子に置いてあったぬいぐるみを渡しに来た。
それをしょうがなく受け取り、今度こそ店を出ると目の前に一台の乗用車が停まった。
その脇をすり抜けて、大通りへ向かう。
五分も満たない時間を歩き、幼稚園バスを待った。
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