気まぐれ猫系御曹司に振り回されて
 ママたちの声であわてておかずを口に詰め込んだり、帽子を被ったり。そうしてすぐにグラウンドへと走っていく。男の子が走りながら蹴ったボールが、グラウンドの隅へと転がっていった。ベンチではさっきと同じ男が同じ姿勢のまま新聞を読んでいる。男はさっきと同じく、新聞から顔を見せることなくボールを蹴り返した。子どもたちの礼の言葉に、新聞を持つ指をわずかに振っただけだ。

「ねえ、あの人、近所の人?」

 凜香は気になって涼香に訊いた。涼香は凜香の視線の先を目を凝らして見ていたが、首を傾げる。

「うーん、顔が見えないからわからないわね」
「さっきからずーっとあそこでああやって新聞読んでるの。もう一時間近く経つのに、変じゃない?」
「そう? お年寄りとか、結構長居する人もいるわよ」
「あの人、若い感じだけどなぁ。ちょっと挨拶してくる」

 凜香は立ち上がって歩き出した。

「ちょっと、凜香!」
「凜香ちゃん」

 涼香と康人の声を背中で聞きながら、凜香はその木陰のベンチに近づいた。

「こんにちは」

 凜香が声をかけると、男が驚いたのか新聞ががさりと音を立てた。それでも顔を見せようとはしない。
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