Darkness~暗黒夢~
灼熱の海
 部屋の片隅にある、置きっぱなしで丸まった新聞紙が、虚しく天井を見上げている。それはまるで放り捨てられたように、日付もあの日のまま、止まっている。

 室内に点在する、いくつものシルバーアクセサリーが、さっきまでブラインドの隙間から溢れていた月明かりを精一杯かき集めて反射していたが、どうやら月に雲がかかったらしく、今はその光すら、失ってしまっている。

 闇の中、剣の素足が微かに音をたてながらフローリングの床を進み、片隅でほこりを被ったままの新聞紙を拾い上げた。

 “人気ジュエリーデザイナー、武藤神楽さん自殺”

 最終面に記された小さな記事。丸い小さな白黒写真に写る、あの、こげた頬。

 紙面に目を落とした剣の、生気を失ってしまっているダークブラウンの瞳が、ぼんやりとそれを見つめている。やがて剣はそれをするりと手放し、ブラインドで塞がれた窓の外の闇を見つめた。




 ゆらりと煙が立ち上るカフェで、剣は唇を噛みしめていた。

「ゴーストがいたらしい。まぁ、業界(ここ)じゃ珍しい話じゃないがな」

 煙の主は業界雑誌の編集者をしている大学時代の友人で、剣がまだ神楽と仕事をしていた頃、たまに三人で酒を呑む等の親交があった。

 友人の口から吐き出される煙が溜め息と混ざり合って灰色をなし、剣の頭の上で消えてゆく。剣は唇を真一文字に結び、その煙を見つめていた。

「明日が告別式だ」

「……行くのか?」

「まぁ……な」剣を見ずに友人がそう答える。彼はそのまま煙草を深く吸い込んで長く吐き出した後、一瞬目を閉じ、煙草を灰皿に押し付けた。「同級生って事で取材させてもらった事も何度かあるし、一応友達だし……」

 どこか含みのある口調に、剣が瞳を動かす。

 “一応”

 胸に重く刺さる言葉。すると不意に、友人が口を開いた。

「お前には才能がある。だけど、神楽(あいつ)は違う」

 言いながら、友人が新しい煙草に火を点ける。剣は相変わらず黙ったまま、その一連の動きを見ていた。

「お前、もしかして……」

 しばらくしてそっと剣が口を開くと、友人は、瞳だけで剣を見た
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