恋愛ドクター“KJ”
 「うん。だから僕は、ホームルームで皆の感情を動かす発言をしたんだ。
 僕は、初めから北海道へ行きたかったんだ。ここがポイントだよ。僕は北海道へ行きたかった。

 意見を出すとき、きちんとした形での意見ではなく、メチャクチャな形で発言すると皆の感情は動かしやすいよ。
 『北海道へ行きたがるなんてバカだけだ!』って、浮動票を持っている人に向かっていうんだよ。ニラみながら強くいうんだよ。
 そうすると、その人は、僕のことが嫌いになるよ。少なくとも好きにはならない。
 嫌いになれば、『誰が、お前の味方なんてするものか!』っていう感情が働いて、沖縄ではなく、北海道へ一票を入れようとするんだ」

 「ああ~!!」
 アスカと一也が同時に叫んだ。

 「そうだよ。もう分ったでしょ。
 僕は、クラスの皆に嫌われる発言を1時間続ければよかったんだよ。
 ぜったいに沖縄がいい! 沖縄へ行きたい人は頭のいい、まじめな人間だけど、北海道へ行きたがるのは悪人だって叫んでればよかったんだ」

 「‥‥ ‥‥」
 「‥‥ ‥‥」

 「そうそう。それからね、多数決を取るときには、僕は北海道に手を上げたよ。
 だって、僕は、北海道へ行きたかったんだから」

 そのKJの作戦は、アスカと一也の想像の外側にあった。
 ウラで、そんな企みを持っていると知っていれば、KJの発言に惑わされるものはいないだろうが、その説明を受けずに多数決に参加していれば、きっと、迷わず北海道に手を上げたに違いない。
 アスカも一也も、同じことを考えていた。

 「これって、『多数決理論』っていうんだ。僕が考えたんだけどね」
 そういったKJは無邪気に笑って見せた。

 「確かに、修学旅行って北海道だったよな。よく覚えてないけど、ほとんど全員が北海道で手を挙げてた気がする」
 ここでも、昔を思い出した顔で一也がいった。

 「うん。7対24で北海道だった」
 KJが答えた。


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