恋愛ドクター“KJ”
 KJは、アスカの様子を、話を理解していることを確認しながら、ゆっくりと続けた。

 「あの電話は、男性にとって、きわめて事務的だったんだ。
 仕事の報告もレストランの予約も、同じ“作業”でしかなかったんだ。

 決定的だったのは電車の中での様子だね。
 男性は、女性との間にアタッシュケイスを置いたし、足の組み方も女性側とは反対だったよ。
 つまり、つま先が女性とは反対側を向いていたんだ」

 電車の中の様子だけは、アスカにもしっかりとイメージできた。
 二人のポーズがまったく同じで、それがおかしくて笑ってしまったからだった。

 「でも、それがどうしたっていうの?」
 電車内での男女の様子は思い出せても、だからといって、女性がフラれる理由にはつながらない。

 「うん。これも心理学の世界では常識だけど、人ってね、交わりたくないっていうか、一定の距離を置きたい相手といるときには、その間に、何かを置きたくなるんだ。
 バッグだけじゃないよ。ノート一冊でもいい。それで壁を作りたくなるんだ。
 足の組み方でも同じことがいえるよ。
 組んだ足の先が、となりに座った女性とは反対向きだったら、その女性とは距離を置きたいって表れなんだよ」

 「ええ~っ!!」
 公園に集まっている多くの人が振り向くほどの声で、アスカは叫んだ。
 「そんなこと、言い切れるの? 偶然でしょ」
 アスカにしてみれば、そんなささいなことで人の気持ちを決め付けるなど、納得できない。


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