君の隣




俺は、無理やり、試撃行になつを付き合わせた。




歩くときは、必ず手を繋いだ。



端から見たら、仲の良い夫婦だ。



実際、旅人からそんな事を言われた。



頭には、おマサへの罪悪感はあった。



でも、なつとの二人旅は、幸せだったし実のある旅だった。




素晴らしい人に会い、剣術で自信を無くしたりもしたが、なつは、俺の気持ちを奮い立たせてくれた。



まぁ、また男の名前が出てモヤモヤするのだが・・・。




時に触れるが、身体を重ねようとすると拒否される。




仕方ないので、花街へ行き、芸妓と一夜を過ごすと、冷めた目で見られる。




なつ「高杉って、女好きで、芸妓好きで、座敷好きだよねー。」



こんな事を言われる始末。




「じゃあ、抱かせてくれ。」と言うと、バカッと怒鳴られる。




女とは、つくづく男をわかってない。










そんなこんなで、充実した、旅も終わろうとした大坂。





なつ「私、ここから京に行くね。」



高杉「何で?萩に帰ればいい。」



なつ「だって、稔麿さんにも会いたいし、京も見ておきたい・・・。」




また、「稔麿さん」だ。



あいつはなつに惚れてる。




そんな所に一人で会いに行ったら、どうなる?



良い感じになるのは目に見えてる。




そんな事・・・。



そんな事・・・?



なつにとってはそっちの方が“良いこと”だ・・・。




稔麿だったら夫婦にだってなれるし、あいつは、優れてる。




なつの志も・・・って家のことまではわからないが・・・。



『二人を会わせたくない』




そう思ってる。




俺は、何をしようとしてるんだろうか・・・。




俺は、武士として高杉家の嫡男としての役目があるのだ。




それを、惚れた女の為に全てを捨てるなど出来るわけがないし、しようとも思わない。




第一、なつはそれを望んでいない。





あの、なつの母から買った情報に、答えはあるのだ。





なつは、俺と政をしたいのだ。




俺と夫婦になることよりも、俺と政をする事を選んだ。



だったら、その場を作ってやることだ。




俺は、心に決める。




いつかなつと政をする。





そのためには、今は、学問と親を安心させることだ。





そして、結局、なつを京へは送らず、萩に連れて帰った。




やっぱり、稔麿の所へやるのがどうしても我慢できなかったからだ。








帰ると、なつは、殿に呼ばれて、特別隊という、お役目を頂いていた。




俺も、明倫館の舎長として復帰したのだ。




なつは、京へ行くという。



兄上に会いに行くと言われては、止めれない。




俺はなつを抱き寄せ何度も口付けた。




俺のことをなつの身体に覚えさせるように・・・。



他の男に目を奪われないように・・・。






自分でも情けないと思う。



自分には、妻がいるのに・・・。



なつが他の誰かとくっ付けば、諦められると思ったが、安井の件で、無理だとわかった。




でも、なつは、軽く抵抗するが俺を受け入れる。






俺のことを想っているのがわかる。




だから、触れてしまう。



欲してしまう。



この気持ちは、まだまだ消せそうにない・・・。








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