恋する淑女は、会議室で夢を見る




 『俺には”彼女さん”に該当するような奴はいないぞ』





「 … 」


―― その女優さんも…

  ”彼女さん”ではないんですか?



そんなに綺麗な人なのに?



――それとも恋はこれからですか…



ドラマや映画の中で、甘い微笑みを浮かべている女優は、
いつだって溢れる魅力で輝いている。


誰もが彼女に憧れ、
恋に落ち

主役の彼に恋をしていた脇役の女の子は
届かぬ恋に泣く…。




―― その脇役は 私だ






「この世の終わりのような顔をして食べるアイスクリームは
 一体どんな味なんだ」



「… 専務」

専務を見上げた瞬間
溢れた涙がこぼれそうになって、

真優は慌てて俯いた。



「… これ あげます
 私には苦くて」

アイスクリームが入ったガラスの器を遥人に差し出すと
真優は急ぐように、
人ごみの奥に入っていった。





「…」




「可愛らしい方ですね」

鈴木翼が微笑む隣で


「だから恋する女は嫌なんだ」

ため息まじりに、そう呟いた遥人は

忌々しげに真優を顰め
真優の食べかけのアイスクリームをひと口食べた。



「… 甘っ」
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