恋する淑女は、会議室で夢を見る
ユキに聞いたところでは、寝ぼけ眼で専務の車から降りると、
寝室へ直行し服を脱ぎ散らかすようにしてベッドに潜り込んだという。
そう言われればそんな気もする…が、やっぱり覚えていない。
とにかくマー先輩とのことはこれからどうしたらいいのかと、そのことで頭が一杯だったので
今朝になるまで、送ってくれた桐谷専務のことはあまり深く考えていなかった。
「真優」
「あ、高橋くん
おはよう」
週に1度か2度、同期の高橋とは通勤の途中で合流でする。
今朝も高橋に声をかけられて、真優の悩みは一旦打ち切られた。
―― とりあえず専務にはお礼を言って、あやまっておこう
・・・
チン
―― ん?
エレベーターから降りて、廊下を進むにつれ今日は様子が違っていた。
いつもなら努めて静かに歩いている秘書課の先輩たちが、カツカツと靴音を響かせながら慌ただしく廊下を行き来している。
ちょうど通りかかった杏先輩に、どうかしたんですか? と、聞こうとすると
逆に杏先輩に声を掛けられた
「真優ちゃんも9時から会議 第2会議室ね
急なことなんだけど、今日の午後から社長がお見えになるの
これから1か月間の予定が大幅に変更になるから大変よ
桐谷専務のスケジュールがわかる書類を持って会議に参加したほうがいいわ」
それだけ言って杏先輩は忙しそうに秘書室に入って行った。
―― 社長?
入社してまもない頃にエントランスロビーの端のほうから、
ちょうど車に乗り込む社長を見かけたことがある。
そういえばあの日も、会社全体が緊張しているように見えた。
―― 専務のお父さまは、そんなに怖い人なのかな…
ブルッ
想像して軽く武者震いをした真優は、急いで自分の席につき
桐谷専務のスケジュールの確認をはじめた。