恋する淑女は、会議室で夢を見る



・・・




気を取り直して真優が自分の席に戻ってから30分ほどが経った頃、瀬波が営業部から戻ってきた。

「専務は?」

「中にいらっしゃいます」

そう答える真優が、少し気落ちしているような気がしたが、
瀬波は何を聞くでもなくそのまま専務室に入った。



「失礼します」


カチャ




「・・・」

部屋に入って、最初に目についたのは床に転がる一つのカップだった。

中に入っていただろう珈琲は空だったようで、床にも応接セットのテーブルにも飛び散ってはいない。

そっと手に取ると、カチャリと音を立ててカップは2つに割れた。


「どうかなさいましたか?」

「別に」

遥人の様子に変わったところは見受けられない。
敢えて言うならほんの一時間ほど前と比べて、スッキリしているように見える。

「・・・」

青木真優の少し元気のない微笑みといい、
もしかすると専務と青木真優の間に何かあったのかもしれないと想像した瀬波は、
カップをゴミ箱に入れ、
秘書交代の話を切り出した。


――こじれる前に手を打ったほうがいいだろう


「秘書の件ですが
 ケリーはいかがでしょう?」

「何のこと?」

「… ぇ と、
 秘書を変えてほしいというお話だったので」

「―― ああ
 …
 ケリーはイヤだ」

「…うっとおしいですか?」

「いや ケリーは優秀だしうっとおしいことはない
 ――ただ
 ケリーの淹れる珈琲は恐ろしく不味い」



「しかし、他には…
 青木真優のままではいけませんか?」

「仕方ないね
 いいよ そのままで」


だとすると割れたカップは何を意味するのか?
青木真優の気落ちしたあの様子は?
色々と引っかかることはあるが、問題は解決したのである。
瀬波は深く考えないようにして、「ではこの資料ですが…」仕事の話を進めた。





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