恋する淑女は、会議室で夢を見る


珈琲を持って再び専務室に入った時は、桐谷専務はソファーから起き上がり、そのままゆったりと座っていた。

「あ、専務、起きたんですね
 大丈夫ですか?」

「ありがとう
 うん 大丈夫」

真優が置いた珈琲を手に取った桐谷専務は
珈琲の香りを楽しむように瞼を閉じて、口元で微かにカップを揺らした。

そして真優に、向かいの席に座るように促し
「香水、どうして変えたの?」
と言う。


「え?」

「そのタイプの香りは記憶にない」

「…
 気分転換です」

珈琲をひと口飲んだ専務は、真優をジーッと見つめた。


「あのクソ生意気なCEOか?」

「!
 …クソって ひどいじゃないですか」


「睡眠もろくに取れないほど俺が忙しくしている間
 君は朝からあっちの男にこっちの男
 そして家に帰ればクソ生意気なCEOとイチャイチャ
 楽しそうでなによりだな」



「…」


いつも同じようなことを言われていたが、
今の言い方には、明らかに棘がある。

「好きでもない男とキスをして
 週末は他の男と飲み会
 俺に抱きしめられても逃げるわけじゃなし
 君はとんだ不良娘だな

 呆れたよ」


その棘もちょっとやそっとじゃない
言葉の全てが、グサグサと心を刺してくる鋭い棘だ。


「…失礼します」

悔しさに唇を噛んで、反論することなく席を立った真優は専務室を出た。



まっすぐ女子トイレに向かい個室に閉じこもると
悔しくて悔しくて涙が出た。


今週の金曜日は、確かに飲み会がある。
でも一緒に行くのは男ばかりじゃない、真優以外の女子と派遣社員の女の子も一緒で、同期の皆で飲みに行こうということになっただけだ。
しかもそのメンバーで行くのは半年ぶりだというのに、何が問題だというのか。


専務は多分、すごく
ものすごく疲れているんだろう…


――だけど



 ひどいよ


専務 どうしてそんな意地悪なことを言うの?

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