恋する淑女は、会議室で夢を見る


ほんのりと心が温かくなっていく真優に
杏先輩がニッコリと微笑んで、カップの場所や砂糖やポーションミルクの収納場所。
役員たちの珈琲などの好みを教えてくれた。

「真優ちゃんは桐谷専務の秘書だけど
 会議やら何やらで、他の役員にもお茶を出す機会があるだろうから
 覚えておいたほうがいいわ」

「はい! ありがとうございます
 メモを持ってきます」

「はいはい」

クスッ




・・・





「あ、そうそう
 桐谷専務は、もしかしたら
 珈琲がお好きじゃないのかもしれないわね」

「え?」


杏の話では、カップを下げる時に
珈琲が半分以上残っていることがあるという。
誰が淹れても同じで、それも一度や二度ではないということだ。

「瀬波さんには何も聞いてないけど
 一度聞いてみるといいかもしれないわね」

「はい 聞いてみます
 ありがとうございます」

―― ハテ?

桐谷遥人が、わざわざ下の階の自動販売機に珈琲を買いに来ていることを知っている真優としては
にわかに信じがたい話だったが、
せっかく教えてもらった情報である。

真優はしっかりと頭の中にインプットした。
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