残業しないで帰りたい!
突然、薄暗い部屋に座り込んだ母親が、このドリルを手に泣いている姿が目に浮かんだ。
自分でも信じられないけど、条件反射のように鼻の奥がツンと痛くなって涙がわいた。
お母さん……。
母親が子どもを手放すなんて、身を切られるより辛いことだった?
体の半分盗られちゃったみたいに苦しんだの?
じゃあ、どうして……?
どうしてあの時扉を開けてくれなかったの?
知らないところで泣くくらいなら、直接会ってくれれば良かったのに。
胸が詰まってドリルを直視できなくなった。
目をそらして箱の中に視線を移す。
ふと、並んだドリルの一番奥に紙が挟まっているのが見えたから、何気なくスッと引き出した。
二つ折りにされた紙を開く。
挟んであった写真がパラパラッとテーブルに散った。
『千葉県吹奏楽部コンクール 進行表』
なにこれ?
これって……俺が高校の時のじゃん。
なんでこんなもの、持ってんの?
テーブルに散らばった写真を拾うと、写真は遠くから撮ったらしく、写った人物が小さすぎて誰が誰だかわからない写真だった。
……これ、俺写ってんの?
じっと目を凝らして探す。
うーん、これかなあ。
……あ、いたっ!俺だ。
若いなあ。っていうかガキだな。
もう一枚はもっと古い。これは運動会か?
小学校の時だろうか。
これも遠くから映してるから、誰が誰だか全くわからない。しかも古い写真で表面がデコボコしてるから、ますますわかりにくい。
目を凝らして見ても、結局どれが俺だかわからなかった。
他にも何枚か写真があったけれど、どれもかなり遠くから撮っている。
母親が撮ったんだろうか……。
まあ、そうだろうな。