残業しないで帰りたい!

それに、親父はあんなろくでなしのくせに世間体にはこだわる古い人間だから、子どもを二人とも手放すことは許さなかったのかもしれない。

夫婦の間でどういう話し合いがなされたのかはわからないけれど、慰謝料の条件もしくは遊馬を引き取る条件として、母親は親父と俺には会わないと約束したのかもしれない。

……。

……もしかして、お母さん。

本当は俺と離れたくなかった?
本当は泣く泣く俺を手放したの……?

額から手をはずして頬杖をついた。

「……一人に、なりたいな」

俺の言葉に遊馬はフッと笑うと、黙って席を立った。

遊馬のヤツ、こうなるってわかったからワインなんて置いていたんだろうか。ワインでも飲みながらゆっくり思い出に浸ってよってこと?

気が利くというか演出が過ぎるというか……。

頬杖をついたままドリルをペラッとめくった。

子どもらしい、筆圧が強すぎるでかい字が並んでいる。

右端には『よくできました』と母親の綺麗な字と花丸が書かれていた。
懐かしすぎるな、この字。

母親の字はすごく綺麗だった。
いつも母親に綺麗な字で『よくできました』と書いてほしくて、俺はいつも間違えないようにがんばっていた。

ペラペラとページをめくっていく。

あれ?
一問間違えてるのに『よくできました』って書いてある。
……採点、甘いなあ。

そして何枚かめくったところで手が止まった。

『よくできました』の文字が滲んでる……。

……涙?
お母さんの涙?

お母さん……このドリルを見て泣いていたの?
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