残業しないで帰りたい!

いろんな話をした。

オムライスが好きなこと。
俺は既婚者じゃないこと。

可愛いって言ったらセクハラって言われて、俺だって王子って言われるのは嫌だって言った。

それに、偶然にも学生時代の部活は同じ吹奏楽部だった。
こんな偶然もあるんだね?本当に嬉しかった。
久しぶりの部活の話は学生に戻ったみたいに楽しくて話が盛り上がった。

その上お互いに嫌いな食べ物を食べ合ったりして……。
なんか、恋人になれたみたいだった。

すごく楽しくて、それなのに不思議とほっとして、取り繕うこともなく俺は俺のままでそこにいて、時間すら飛び越えて同じ空気に浸ってるのを感じた。

今までも遠くから見て、青山さんを好きだと思ってたけど。
あんなの比じゃない。
あれはアイドルを好きだと言っている中学生のレベルだった。

俺は彼女を前にして、彼女に溺れていく自分を感じた。

話せば話すほど、パズルの欠けたピースがきれいにはまっていくように、彼女の存在が心の隙間を埋めていくのを感じた。

……この人なんだ。
この人に出会うために俺は存在したんだ。

こんな気持ち、もう引き返せない。
もう、後戻りなんてできない。

自分が三十も半ばになって、こんな若い女の子をどうしようもなく好きになるなんて、想像もしなかった。
こんなオッサンが若い女の子に狂うなんて、どうかしてる。
若い彼女が俺のことなんか、見てくれるわけがないのに。

彼女の若さを目の当たりにするとつい怖じ気づいてしまう。

でも、年齢じゃない。
そういうことじゃない。

俺は彼女が好きなんだ。
好きで好きで、たまらないんだ。

もう、どうしようもないんだ……。
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