残業しないで帰りたい!

二人が帰った後、和彦くんが微笑んだ。

「優香ちゃんは優しいね」

「は?私?あんな意地悪言ったのに、どこが優しいのよ?」

「僕は君のこと、わかってるんだよ?」

「……」

君のことをわかってる、なんて言われるの、本当は好きじゃない。いったい私の何がわかるって言うのよ。
……でも、和彦くんは特別に許してあげよう。

私はそんなあなたに救われてきたから。

あんなイケメン捕まえてきてなんか悔しい、とか言って、私だって和彦くんにビックリするほど尽くされて、ビックリするほど愛されてきた。

私のことも、私にくっついてきた香奈ちゃんも、全部受け止めてくれる和彦くんがいるのに、隣の芝が青く見えるなんて、私は欲張りだ。

でも、私は私の幸せを見つけたから、大丈夫。

私も香奈ちゃんも、別の道に進んで別の幸せを生きていく。そんな別の幸せを生きていく香奈ちゃんを、私はちゃんと見守ってるよ。

だから俊夫さん、安心してね。


今まで親戚の子みたいに接してきたけど、香奈ちゃんって実は私の娘だったと思う。

あのイケメンはきっと香奈ちゃんを幸せにしてくれるだろう。

香奈ちゃんが本当の恋をできたことを知って、あの時のことを素直に謝ったら、外れることのなかった重たい手錠は、シュワッと蒸発するように空気に混じって消えていった。

今までの気を遣った不自然な距離の近さを乗り越えて、私の娘は本当の意味で私の元を巣立って行ったんだ。

私がかつて愛した人の娘。私の大事な娘。

心から願う。
幸せになってほしい。

もちろん、私の方が幸せだけどね。




【 負けず嫌いだから 青山優香 】
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