残業しないで帰りたい!

「だからさ、香奈ちゃんはもしかしたら『お母さん』にはなりたがらないかもしれないよ?アンタそれでもいいの?」

「……お母さんになりたくないというのは子どもを欲しがらないということですか?」

「そういうこと」

「彼女は子どもが欲しいと言ってましたが」

「アンタに合わせてるだけかもよ?あの子はすぐ人に合わせるから」

「……」

イケメンは少し考えてからまっすぐ私を見た。

「俺は彼女と一緒にいたいから結婚するのであって、子どもが欲しくて結婚するわけじゃありません。それについてはこれから時間をかけてキチンと話します」

「ふーん、そう。まあ、それならいいけど」

香奈ちゃんがイケメンに合わせてるのかどうかはわからない。本当に子どもが欲しいのかもしれない。

でも、それが原因で別れたり、我慢することになったりしたら、香奈ちゃんが可哀想だもん。だから今のうちに私は相手の男の気持ちを確認しておきたかった。

男が答えに戸惑ったら反対しようと思ってたんだけど、こいつはかなり誠実に答えた。

……仕方ないから、いちおう合格にしてあげようか。

「香奈ちゃんはさ」

「はい」

「お母さんもお父さんも早くに亡くなって、赤の他人の私たちと暮らしてきたじゃない?言葉にはしないけど不安だったと思うんだ。いつも喪失感と隣り合わせに生きてきたと思う」

「そうですね」

「だからさ、アンタが早く死んだら、寂しくてすぐにいい人みつけて再婚しちゃうかもね?」

「……俺は、長生きしますからっ」

イケメンが睨んで言い返してきた。
クククッ、やっぱりやきもち妬いてるよ。イケメンのくせに笑える。

私がニヤニヤしていたら、香奈ちゃんと心愛がキャッキャッと楽しそうに居間に戻ってきたから、私たちの話はここで終わった。

その後も、私とイケメンは終始ピリピリした雰囲気だった。
まあ、ピリピリするようなことを言ったからなんだけど。

香奈ちゃんは私たちがあんまり険悪だから心配してたけど、これでいいんだよ。

香奈ちゃんが悲しい思いをしないように、私はこいつに圧力をかけ続けよう。
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