残業しないで帰りたい!

それからしばらく話している間も、彼女に怖がっている様子はなかったけれど、心配で何度も「怖くない?」と聞いてしまった。

何度も聞いたせいか、彼女は小さな声で、でも踏ん切りをつけるように「課長のこと、怖くなんてありません」と言ってくれた。

その言葉はそっと俺の背中を押すように柔らかく沁み込んで、俺の期待を加速させた。

気持ちも伝えてしまったし、もう迷いはない。

だから君に言ったんだ。

「俺と付き合ってもらえないかな?」

自分からこんなことを言うのは初めてだ。
彼女がうなずく確証なんてない。
玉砕は覚悟の上。

でも、もし君が俺と付き合ってくれたら、俺は絶対に君を大事にする。
君を傷つけるようなことは絶対にしない。
心から誓う。

それに。
純真で素直な君を見ていると思うんだ。

君と付き合うことができたら、俺も君と同じように純真で真っ当な人間になれるんじゃないかって。
今までの自分をリセットして、もう一度スタート地点に立てるんじゃないかって。

もちろんこれが極めて身勝手な醜い願望だってことはよくわかっている。

無垢で爽やかな君のそばにいたら、俺の過去は洗い流されるんじゃないか、なんて……。

そんなこと、できるわけがない。

何をしたって俺の過去は消せないし、俺がいい歳のくたびれたオッサンで、君がキラキラした若い女の子あるという事実も変わらない。

そもそも過去を洗い流したいなんて思っている時点で、俺は既に汚れた存在だ。

こんな俺が君に見合うわけがない。
……わかってるけど。

それでも俺は覚悟を決めた。

どんなに無様で見苦しくても、俺は君と素直に恋をしたい。
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