残業しないで帰りたい!

「私が休みの間、峰岸君の担当は青山さんになるから、よろしくね」

北見さんはにっこり笑ってそう言った。

どうして俺の担当、白石さんじゃなくて青山さんになっちゃったんだろう。

ずっと俺の担当だった北見さんが産休に入るから、引継ぎで白石さんか青山さんに担当が代わるって聞いた時は、ひそかにガッツポーズまでしたのに。

別に青山さんに不満があるわけでも、嫌なわけでもない。
青山さんは一生懸命ないい子だと思う。

でも。
俺は白石さんに担当になってほしかった。

白石さんが俺の担当になったら、もう少し話ができたかもしれないのに。

もう少し、近づけたかもしれなかったのに。

同期の白石さんは小さくて可愛くて、ふわふわした雰囲気のくせに言いたいことをでかい声で言う元気な女の子だ。

元気な彼女のことが、入社した時からずっと気になっていた。新人研修の時もチラチラ見ていた。けど、「おはよー」と「お疲れー」くらいしか言葉を交わすこともなく……。

俺は何をやっているんだか。

それでも、同じ横浜支社に配属されて、嬉しくて、がんばって少しずつ話しかけるようになった。

でも、話す内容はいつも同じ。

「白石さん、今日も定時であがり?」

「うん、合コンなんだー」

「今日も?」

「まあね!」

本当は、彼女が合コンに行くなんて話は聞きたくもない。いつも煮えくり返るはらわたをなんとか抑えながら聞いている。

白石さん、合コンでいろんな男と楽しく話をしているの?
変な男に触られたりしてない?

……いつかその男の中の誰かに持っていかれてしまうの?
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