残業しないで帰りたい!

越川さんは、教材の内容より我が社の信頼と実績を売りにしている。まあ、それも悪くはないのかもしれないけれど、松永さんや俺とは考え方が違う。

買い手にとっては根拠のない信頼より、商品の内容の方が重要なんじゃないの?最近は口コミの影響も大きいから、やっぱり内容が重要だと思う。信頼は内容の後についてくるものだと思うけどね。

ちなみに、今の社長は前社長の息子だ。前の社長は役職を息子に譲って会長になった。
会長になってからも実権は握っていて、俺の人生はこれからよ、なんて言っていたのに、あっけなく突然亡くなった。

今の社長は前の教訓を活かしているのか、全くワンマンではない。むしろ、優柔不断で決断力がない、なんて声がちらほら聞こえてくる。

二代目社長なんて大変だな。
俺は一介の営業マンがいい。

営業か……。
戻りたいなあ。
早く営業に戻りたい。

松永さんが本社に戻ると正式に決まったら、きっと俺を呼んでくれる。

松永さんと俺は性格は違うけれど、どこか似ているところがある。
年上の人に対して失礼だけど、松永さんとは気が合うというか、阿吽の呼吸で仕事を進められる。

「藤崎、東京戻ることになったら、可愛い彼女と離れちゃうな?どーすんの?」

「どうするって言われても、ねえ」

そりゃあ、香奈ちゃんとは離れたくない。
できるだけいつもそばにいたい。

でも、一般職の彼女を東京に異動させるなんて職権乱用はできないわけで。

「……横浜から、そのまま通おうかな」

「はあ?お前、朝ダメじゃん。間違いなく遅刻するよ」

「うーん。まあ、がんばるよ」

「へえ?そーかい、ご苦労なこって」

確かに横浜から東京に通うのは遠いなあ。
本社に戻れるのなら、本当はできるだけ本社の近くに住みたい。そして香奈ちゃんにも一緒に来てほしい。
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